そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.18 百武さん

 アマチュア天文家百武裕司さんが51歳の若さで亡くなられた。百武さんについては,あの百武彗星で多くの日本人が知っていることと思う。

 私は子どものころ天文のことが好きだった。レンズを買ってきて手作りの望遠鏡を作ったり,月面や火星,土星,太陽の観察をしたり,ソ連の人工衛星を観察しようと朝5時ごろ起き出して,寒さの中まだ暗い空を眺めていたりしたものだった。
 今もその癖が残っていて,天気のよい夜外に出ると空を眺める。そして,星座を見つけてはつぶやく。「あれは白鳥だ」「さそりのアンターレスだ」などと。

 百武彗星はそんな中で,実に鮮やかな天文現象だった。平成8年度の始業式の日,担任発表の話に次のような前置きをした。

〜〜〜春休みに百武彗星を見た人? たくさんいますね。私も見ました。天文のこと,星
 のことなど,私は子どものころから好きでして,彗星もこれまで何度か見てきました。
 でも百武彗星ほどはっきりわかるきれいな彗星は初めてでした。
  あっ。なぜ彗星の話をするのか,ですね。
  彗星には,一つ一つちがった軌道があります。つまり,一つ一つちがった道があるの
 です。太陽系という宇宙と,別の天体をグルーッと何十年,何百年,何万年もかかって
 回っている彗星もあります。大きさも,明るさもみんなちがいます。そのたった一つの
 個性を持った彗星と,たまたま私たちは出会うことができました。
  みなさんも一人一人ちがった顔をし,一人一人ちがった個性を持っています。先生方
 も一人一人そうです。そのちがった人間が,たまたま受け持ちの先生,受け持ちの子ども
 たちとして,今日出会います。すごいですね。大事にしたいですね。
  百武彗星と私たちとは何日かしか見えない僅かな出会いでしたが,受け持ちの先生と
 の出会いは一年間,一生涯の中の貴重な1ページです。これからの一年間,本校の
 それぞれの学年の一人として,一生懸命勉強してください。〜〜〜
 
 子どもたちは最初「なんのことだろう,早く担任の先生の名前を言えばいいのに」という顔をしていた。それでも,だんだんわかってきたらしい。うなずき,目を輝かせる表情も見えるようになったのだった。

 私は百武さんとは全く面識がない。しかし,こんな思い出を通してある意味では『身近な人』だった。
 きっと星への思いとともに星の世界へ旅立たれた百武さん,ご冥福をお祈りします。(2002.4.14)