そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.189  演劇二つ 

 5月に二つの演劇を見る機会を得た。
 一つは演劇鑑賞会の文学座公演『缶詰』(水谷龍二作・鵜山仁演出),もう一つは夢ORES公演『追憶のかけら』(森本孝文作・演出)であった。

 演劇鑑賞会に入って2度目の鑑賞である。さすが1000人ほどの会員を持っているだけあって内容のある企画が多い。
『缶詰』は,社員に退陣要求を着きつけられた製靴会社の社長(角野卓三)が,専務(たかお鷹),常務(田村勝彦)と三人で伊香保温泉の旅館に泊まりこみ,反撃作戦を練っている。ところが旅館の女将と仲居は,それを映画作りにきているものと勘違いしてしまうところからおかしなことになってしまう。
 ドタバタの喜劇なのだが,現代の不景気とも重なるものがあり,竹久夢二のロマンも絡んで,笑いの中にも何か考えさせられるものがあった。

 7月は『頭痛肩こり樋口一葉』(こまつ座),9月は『十二夜』(俳優座)と続く。楽しみである。

『追憶のかけら』の「夢ORES」は今まで聞いたこともなかった。作・演出の森本さんが気高町宝木の人で,宝木公民館での公演である。もっとも,この間の演劇鑑賞会でチラシをもらっていたので見にいきたいと思っていたのだった。
 町報などでも紹介されていたが観客は40人ばかり。それも案内などのスタッフを入れての人数だから,有料の観客は30人ほどか。前日の夜にも公演があったので今日は少ないのかもしれないが,小さな地方の劇団運営は大変なことだろうと思う。
 後で作者の森本さんが「この宝木公民館の建て方の特徴も生かしたかった」(1階フロアと2階観客席との非常梯子を劇の中に生かした場面設定)と話していたが,まあその辺りはなんとでもできよう。

 会田綱雄の詩『伝説』が劇の中で朗読された。
「湖から/蟹が這いあがってくると/わたくしたちはそれを縄にくくりつけ/山をこえて/市場の/石ころだらけの道に立つ/蟹を食うひともあるのだ(以下略)」(会田綱雄詩集『鹹湖』より) 
 父親の死を知らされ,遺産目当てに集まる腹違いの3人の兄妹たちと,きれいな湖と白樺林のある村に住む一人の女(やはり父親の何人目かの女か)を巡る物語である。村に伝わる人魚伝説もからんでくるのだが,テーマは会田の『伝説』か。少し難しいと私は思いながら見た。(2003.5.25)