そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.193  こぶ座 

 
   納税組合という団体がある。固定資産税を完納することを奨励している団体として,年間いくらかの金が下りてくる。その金で組合員が何かの厚生事業を行うのである。私はこれまで加入せずにいたが,勧められて加入することにした。個人で支払ってもなんの恩典もないからである。
 これまで勝見納税組合では,旅行をすることが多かったと聞くが,不景気のせいかだんだん下りてくる金が少なくなって,今年は羽合町のホテルで芝居見物日帰り旅行となった。

「三匹のこぶ座」は私が羽合町内の学校に勤めたころに始まった芝居小屋だと記憶している。ホテルの大広間を芝居小屋にして,全国を巡回公演している劇団に来てもらい,客に芝居を見せる。昼夜2回の公演をするので,昼の公演は食事と芝居見物,夜の公演は主に泊り客が見るという仕組みだ。
 ホテルとしては客寄せの一つの目玉に,劇団にとっては劇場確保と客集めができるという,持ちつ持たれつの関係となっている。

 劇団は5人から7・8人くらいの小さなもので,中には子役がいることもある。多分家族で劇団に所属していて,それについて回っているのだろう。
 私が勤めていたときにも何人かの劇団所属の子どもを見てきた。ここの劇場ではだいたい連続2ヶ月くらいの公演を行う。つまりその子は2ヶ月だけそこの学校に籍を置き,また次の学校に転校していく。小学校だけで十回以上の転校をしている子どももある。
 また,全国といってもそんなに多くの芝居小屋を回るわけではないので,同じ学校に2度・3度籍を置くこともある。

 子役となると時間的な制約もある。朝,劇団の人に車で送ってもらって登校。2時間ほど学習をすると迎えの車が来て下校する。学校での生活はそれだけ。午前中の公演に出演しなければならないし,午後も公演があるからもう学校に来ることはない。子役はこういう芝居では人気者というから,劇団としても重宝しているのである。
 2ヶ月たって転出のとき,転出先から受け入れの通知がくるまで学校は心配する。「どこに転校したのだろうか」と。
 歌舞伎や歌手の子どものころの生活を,テレビでやっていることがよくあるが,地方回りの子役もなかなか大変だ。

 今回の芝居には子役はなくて,いわゆる義理と人情のやくざ芝居。しかし,この手が現在でも結構人気がある。日本人の心の中にはこのような心が染み込んでいるのかもしれない。  (2003.6.18)