そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.199  頭痛肩こり樋口一葉 

 演劇鑑賞会7月例会は「頭痛肩こり樋口一葉」(こまつ座・井上ひさし作)だった。
 我が家は一名の入会にしていて,都合のつく方が観劇をすることにしている。3月,5月はどちらも私が鑑賞した。7月は妻の都合がついたので「ぜひ見ろよ」と決めていた。ところが同じグループの会員の都合が悪くなったということで,代わりに行ってもらえないかと当日言ってこられたのである。ありがたく二人並んで鑑賞させてもらうことにした。テレビでもおなじみの有森也実さん主役の演劇をちょっと見ておきたかった。というのも本音。

 劇は仏壇のある舞台に子ども達の童謡風の盆の練り歩きから始まる。
〜〜ぼんぼん盆の16日に 地獄の地獄の蓋があく〜〜
 井上ひさしの作詞によるこれらの唄はこの劇を象徴するものであろう。
 明治23年7月16日,樋口一葉(夏子)19才の盂蘭盆から,明治31年7月16日一葉の母多喜の新盆まで,時はそれぞれの年の盆の16日,所は一葉の引っ越し先を舞台に物語は展開する。

 樋口一葉は,明治29年24歳の若さで亡くなっており,知られている作品も明治24年から29年までである。その間,数回の引っ越し,一生のうちには十数回の引っ越し人生だった。貧しさのうちにもその間に見聞きし,経験したことが彼女の作品に再生されているという。

 出演は女性ばかり6人。つまり,明治時代に一葉が描こうとした女の生き方がテーマだろうか。主人公は一葉(有森也実)であろうが,登場する他の5人の生き方(花蛍という幽霊も含めて)それぞれにテーマを構成しているような気がする。そう考えると6人とも主人公のような気がしてきた。
 幽霊を登場させる手法は最近の舞台で何度か見かけた。非現実のもの(霊)を登場させることによって,難解なことや現実的でないことをなんとなく現実に近づけるような手法だろうか(演劇は全くの素人なので分かりません)。幽霊のちょっと滑稽な動きの中に「ほんとのこと」を語らせるのである。

 童謡風の唄とあわせて,大道具・小道具の工夫も面白かった。引っ越しによって少しずつ変わる舞台の中心は常に仏壇。この劇の舞台の1つのテーマなのだろう。
 蛍が舞台だけでなく客席を点滅しながら飛ぶ工夫は見事だった。

 2幕10場面,休憩も含めて3時間ほどが短く感じられる今月の例会であった。