そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.205  輪くぐりさん(勝見シリーズ11) 

 6月21日は輪くぐりさん。私が子どものころからの神社の行事である。勝見の黒住教会所で毎年この時期に行っている。『勝見のあゆみ』(勝見郷土誌史発行委員会)には次のように述べられている。
〜〜 黒住教の行事で,大祓大祭ともいう。青い茅の茎葉を丸く束ねて,大人の立ったままくぐれるくらいの大きさに輪にしたものが鳥居に結びつけてある。これをくぐって拝むと,罪やけがれが落ちるといわれる。氏子は配ってもらった人形を体にあてて,それと賽銭を講社に持参し,お祓いをしてもらう。当日は道ばたに店が並び,昔は近郷近在からもお参りする人があって賑わったという。〜〜

 この行事はかなり広い範囲で行われているようだ。手元にあるだけの資料で調べてみる。
〜〜 気高町姫路では,旧6月15日村民がこぞって氏神にこもった。農作物の豊作や悪疫の退散を祈ったという。虫ごもりともいい,虫送り的な要素がうかがえる。岩美町では,老女がむしろを持ってこもり堂に集まり半日こもる習俗があった。赤碕町の夏祈とうは三十日で,かやで「ちの輪」をつくりくぐった。「わくぐりさん」と称した。このかやは,氏神の鳥居のそばにはえているものを用いた。ちの輪はへびになぞらえたもので,水神信仰と関連している。〜〜(鶴田憲弥『鳥取の民俗365日』より)

『日本国語大辞典』(小学館)でも「夏祭に神社で参詣人が輪をくぐること。胎内くぐり。鳥取県西伯郡」とあるから,因幡,伯耆で広く行われる夏の神事であろう。ただし,「輪」が「蛇」か「胎内」かは不明である。あるいはどこかで一致しているのかもしれないが。

 この夏祭りは子どもたちにとって楽しみの一つであった。
〜〜 わくぐり(昭和29年)  気高郡浜村小 3年 たが ふみこ
 あしたわくぐりとたのしみにしとった。わくぐりがきょうになった。ばんはみんなそろって,わくぐりにいったら,わくぐりのわのなかでみんなが,わいわいがやがやと大声をたてて,いろんなものをかあていました。わたしもたのしくなって,あいすぼんぼんをかあたら,おかあちゃんが,
「はらがいたくなるからたべられん」
といった。(以下略 稲村謙一編著『子ども風土記子どもの暮らし今昔』より)

 20年も前に,子どもたちを連れて夜店を覗いて回ったことを思い出しながら,出かけた。しかし,通りに人影はない。1軒の店もない。まだ早いのだろうか。いや,教会所の中からは祝詞を上げる声が聞こえ,座っている多くの人も見えた。
 20年の間に,この小さな祭りはすっかり変わってしまったのだった。あの賑わいと子どもたちの声と笑いはない。
 私は輪をくぐって中に入り,賽銭を投げ入れ手を合わせた。受付の人が,
「どうぞ上がってください。」
と招じたが手を振って断り,教会所をあとにした。