そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.21 若葉光る

 一斉に花開いた季節が終わって,若葉の季節が訪れた。山の緑が日一日と増えていく。まだ初々しい緑である。もう5月といってもいいくらいの陽光を受けて,まぶしいくらいに光っている。

 久しぶりに海岸近くを車で走る。アカシヤが芽を吹いている。そう言えば,気高町の町花はアカシヤであった。町花として制定されたのは昭和49年11月3日,町合併20周年を記念してのことである。
 浜村砂丘にアカシヤが多いのは,砂丘地の畑地開墾のために植えられたからである。クロマツ植林と合わせて,飛砂を防ぐためのものだった。この開墾の歴史についてはいずれ触れる機会があろう。

『アカシヤ』と私たちは普通呼んでいるが正確には『にせアカシヤ』『いぬアカシヤ』『ハリエンジュ』。どうもあまり聞こえのよい名前でない。同じことを思った詩人がいた。彼はわざわざ本物のアカシヤを見に行く。

「彼は,しかし,本物の二本のアカシヤを眺めたとき,安心した。なぜなら,にせアカシヤの方が ずっと美しいと思ったからである。」(清岡卓行著「アカシヤの大連」より)
「にせアカシヤから『にせ』という刻印を剥ぎとって,今まで町のひとびとが呼んできた通り,彼は そこで咲き乱れている懐かしくも美しい植物を,単にアカシヤと呼ぼうと思った。」(前述に同じ)

 私も彼に従おう。5月になったらこのたくさんのアカシヤの白い花の房から,甘い香りが一面に漂うだろう。
 道べりには野生化したダイコンの花が風にゆれている。畑では麦が競うように穂を伸ばしている。

 いつもは5月に植えている夏野菜だが,この気候の様子から見て,今年はもう植えなければならないようだ。キュウリ,トマト,ナス,ピーマンそれぞれに5本ずつの苗をいつもの店で買い求める。
「もう暖かいから大丈夫。でも,風が強いこともありますから,風除け程度の覆いはしてやってくだ さい。上を蓋すると蒸れてしまいます。」
 もう初夏。今年は少し畑仕事に元気を出して,息子たちに新鮮な野菜を食べさせるか。
                      (2002.4.20)