そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.235  京の旅3

「永観堂の前の鹿(しし)が谷道を北へ行くと,熊野神社や新熊野神社とともに京都三熊野と呼ばれる若王子(にゃくおうじ)神社に出る。角に哲学の道の石碑が立ち,ここから銀閣寺参道まで約2qが哲学の道である。哲学者西田幾太郎が命名したとかで,途中に碑も立っている。」(『京の古寺歩き』実業之日本社)
 私たちはこれを逆に歩いている。左には琵琶湖疏水が流れ,桜並木が続く。花の頃はとてもいいだろう。

 少し歩いて法然院に立ち寄る。浄土宗の開祖法然上人が,弟子とともに六時礼賛(阿弥陀仏を昼夜6度にわたって礼拝・賛嘆すること)に勤めたといわれる所である。萱葺きの山門がどっしりと落ちついている。
 本堂の縁側に腰を下ろしていろいろ説明をしている人がいる。ガイドというわけではなく,人を待つ間,観光にやってくる人にここの説明をしているらしい。サービスガイド。拝観料も要らないのでなんだか得をした感じになる。

 ずいぶん歩いた感じがする。
「どうしてこれが2kmなんだよ。」
「でも,ガイドブックにそう書いてある。」
「だって,ほら南禅寺が見えてきたじゃないか。」
 どうもいつのまにか哲学の道を過ぎて,昨日来た南禅寺まで来てしまったのだ。時計も12時半を過ぎている。見ると,「総本家ゆどうふ奥丹」のちょうちんが下がっている。やっと昼にありつける。しかも食べたかった湯豆腐だ。「京都の豆腐がすぐれているのは,この付近が,その原料となる良質な大豆を産するのと,その加工に適した水に恵まれているからである。なかでもインクラインのそばにある南禅寺豆腐は有名だ。」(松本清張・樋口清之『京都の旅』光文社)【インクライン=疏水・琵琶湖の水を京都まで引いている】

 昼過ぎなので満席かと思って尋ねると「すぐお持ちできるでしょう」とのこと。案内されて入ると,広い和室で20人ばかりの人が食事をしていた。
 湯豆腐は土鍋を七輪にのせて温めているので,部屋が暑いかと思ったがそうでもない。湯豆腐のほかに,てんぷら,とろろ汁,胡麻豆腐,木の芽でんがく,ご飯,香のもの,といわゆる精進料理。量も多からず,少なからず,おいしい昼を過ごした。

 南禅寺前を通りすぎて,昨日のバス停から駅に向かう。
 駅ビルでエミール・ガレ展を見たが時間が十分取れず,疲れてもいたのでそのガラス美術の美しさを十分に味わうことができなかった。
 京都は何度来ても見るところが多い。今回は急な観光になったが,今度はまた,いい計画を立てて来よう。 (終わり)