そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.240  奥出雲1

  伏して見る水の早さや紅葉狩   高浜虚子
 なんで「狩り」なの,と『広辞苑』をひいてみる。
「狩り【猟・狩】@かりをすること。鳥獣を追立てて捕えること。A鷹狩。鹿狩。B魚・貝をとること。すなどり。「潮干狩」C松茸・蛍・桜花・紅葉などを尋ね探し,また採集すること。」なるほど,尋ね,探し,観賞することも含まれているのか。

 去年は京都の紅葉を見ようと11月はじめに訪れたのだが,少し早かった。今年は近場で紅葉狩りをしよう。連休を避けて,天気をみはからって,場所を考えて,とさまざまな条件をクリアしなければならない。
「鬼の舌震が見ごろだとテレビで言ってた。」と妻が言う。
「じゃ,そこにしよう。」候補地をいっぱい出したにしてはあっさりと決まる。

 今年は出雲周辺を訪ねる機会が多かった。自然観察の会の企画と,私たちの計画がたまたまここに重なったようだ。
 途中,広瀬町の加納美術館に寄る。足立美術館は以前見たのでちょっと変えてみた。10時開館ということだったが,5分前に到着した私たちを入れてくれた。しかし,入館料千円はちょっと高いか。
 加納菅蕾の作品とコレクションを中心とした美術館である。備前焼を中心に確かにいい焼き物を集めている。また,菅蕾の多才な作品にも感心させられるが,館全体として少しそれに頼りすぎている感じがする。

 少し先を急ぐ。目的は「鬼の舌震」である。仁多町の観光マップによると,
「阿伊の里に住む玉日女命を恋い慕った和仁(サメ)が,日本海より斐伊川を夜な夜な通い来たので,姫は大岩で川をせきとめ,阻まれた和仁は一層烈しく姫を恋い慕った。その『和仁のしたぶる』が訛って,「鬼の舌震」と呼ばれるようになった。…と伝えられています。」

 斐伊川支流の馬木川を,橋を渡りながら右に左に見ながら紅葉を楽しむ。今年の紅葉は秋になってからの気温が高かったためか,あまり鮮やかとはいえない。
 しかし,渓谷を彩る紅葉と巨岩には目を奪われるものがある。そんな景色を見ながら,私は思っていた。
「和仁」を「鬼」とするよりも,「鰐」と素直に考えて,巨岩を「鰐」にイメージする方が分かりやすいのではないのだろうか。「出雲の風土記」にたてつく気はないが,川を見ながら遊歩道に散った紅葉を踏み歩む。(続く)