そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.245  小さな発表会

 町立図書館で本を借りて,帰りかけたら主幹の岸本さんが,
「逢坂の子どもたちがこんなものを持ってきましたので,よかったら来て見てやってください。」
と言う。見ると,1枚のパンフレットだった。
「逢坂小学校の5,6年生は,宮沢賢治について勉強しました。5年生は注文の多い料理店のことについて勉強しました。6年生は,宮沢賢治の作品と生き方について学びました。そしてそれぞれが座談会グループとプレゼンテーショングループに分かれてまとめてきました。発表するのでぜひいらしてください。お待ちしています。」
 先日研究発表会で学習を公開したもののまとめらしい。

 当日図書館の2階の会議室には,逢坂地区の人たち,子どもも含めて20人ばかりが集まっていた。担任のM先生が私を見つけて,
「ちょっと時間があいてしまって。」
と言う。学習から今日の発表会までの日にちがあきすぎて,ちょっとやりにくい面がある,ということらしい。

 座談会は,「注文の多い料理店」の登場人物に役割を分担し,さらに宮沢賢治と西本鶏介(文芸評論家・宮沢賢治研究者)も登場させ,この作品のテーマを探るというものだった。賢治の人間・動物・自然に対する優しさ,愛情をよくとらえていた。
 次に,この話の続き話を自分で考え発表した。「しわが寄ったままの紳士」のしわが無くなってハッピーエンドにしたものが多かった。しかし,もう一度料理店に入って行った紳士がもう帰って来ず,人々からも忘れられてしまった,という続き話を考えた子が一人だけあった。なんとなく現実味を帯びていて,怖い話だった。

 どの子も賢治の童話をたくさん読んでいて,賢治の生き方,求めようとしたものについて考えをよくまとめていた。その意味からいえば,読書を通して深く考え,まとめ,相手に分かりやすく伝え合う,という国語の大きな目標に近づきつつある,と思った。
 しかし,西本鶏介の教材文「宮沢賢治」に頼ってしまって,そこから抜け出していないような気もしないでもない。「優しさ」だけでは解決できないものが賢治の作品にはあるはずだ。そんなところを作品の中から見つけ出して,また新たな議論をしてほしい。
「賢治の読みはここまで」でなく,「ここから」である。
 何はともあれ,私たち大人も勉強をさせてもらった1時間であった。