そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.260  芸術の冬見て歩き3狂言(大学時代の同窓会2)

「狂言を見に行こうか。」
と妻が言う。県民文化会館であることは知っていたし,狂言が嫌いというわけではない。ただ,何か他にないかな,と考えていて踏み切れなかった。そう言えば去年の12月には,倉吉未来中心でオペラ「魔笛」を鑑賞した。「うーん,今年はやっぱり狂言にするか。」
 早速県民文化会館に指定席予約の電話をする。

「指定席は残り1席だけですが,2席ですか。ちょっと当たってみますのでしばらくお待ち下さい。」10分も待たず連絡があった。「2席とれました。」
 翌日券を買いに行く。
「どんな席ですか。」妻が聞いている。無理矢理頼んだのだからどんな席でもしょうがないじゃないか。係りの女性が座席表で示したのを見てびっくり。最前列だった。
「こりゃあ首がだるくなるわ。」

 狂言を見たことはこれまでに2回ばかりあるが,随分前のことであまり覚えていない。以前の国語の教科書に出ていた教材のビデオなどと記憶がまぎれてしまっている。
 今回の鳥取・米子公演は「〜茂山一門の世界〜狂言を楽しむ」とある。鳥取での演目は「萩大名」「延命袋」「仁王」の3つである。最初の「萩大名」には,茂山千作も出演する。
 初めに狂言についての解説があった。狂言の歴史,動き,今日の演目についての簡単な説明,アジアの演芸・舞踊と欧米のそれとの違いなどであった。

 3つの演目がそれぞれに特色を持っていておもしろかった。
「萩大名」では風流を知らない田舎大名と,見事な萩の庭の持ち主,太郎冠者のやりとりがなんともいえずおもしろおかしい。田舎大名の無知さ加減を笑いながらも,一方では形式主義を暗に批判しているのかもしれない。
「延命袋」は口うるさい女房を離縁しようとする主人の話。主人と女房の間でおろおろする太郎冠者,離縁の印と言って主人を捕らえてしまう女房の知恵がおもしろい。
「仁王」は賭博で財産を失った男が仁王に化け(仁王の表情がなんとも言えない),参詣する人たちからお供え物を騙し取る話。最初はうまくいくが2度目にはばれてしまう。
 参詣者の願い事には特に決まったせりふはなく,そのあたりのアドリブも狂言本来のおもしろさだという。

 何しろ最前列,出演者の顔の皺(あまり化粧していないからよく分かる),衣装の生地,役者がせりふを言うときに唾の飛ぶところまで鑑賞できた。これからは,大きな舞台のときには指定席の値段は同じ,いい席が取れるように努力しよう。