そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.268  絵本大学時代の同窓会2)

『絵本のよろこび』(松居直著・NHK出版)を読んだ。
 絵本の絵と文から子どもは話を読み,言葉を獲得する。すぐれた絵本や話を幼児期に知って欲しい。近頃の少年の残虐な犯罪は,それを経験せず,頭に言葉(知識)は詰まっていても心の言葉が貧しいところから来ているのではないか,と筆者は言う。
 福音館の絵本編集に携わっておられる筆者が,いくつかの絵本を上げてその読み方,絵本作家のこと,これからの絵本づくりについてなど,豊かな経験をもとに述べている。
 取り上げてある多くの絵本の中から数冊図書館で探してきた。描かれた絵のよさ,選び抜かれた言葉はほんとうに素晴らしい。

『ちいさいおうち』(バージニア・リー・バートン作 石井桃子訳 岩波書店)は,「岩波子どもの絵本」というシリーズで,ずいぶん前に出た本だ。そのころは小さな版だったが,私のうちでも全部買って子どもたちに読んでやった記憶がある。そのシリーズの何冊かは今も残っているが,多くは散逸してしまい,この本も探し出せなかった。
 田舎の静かなところに建てられた「ちいさなうち」のまわりに,道路ができ,ビルが建ち,電車や地下鉄が走り,人々が忙しく歩くようになる。「ちいさなうち」が求めているのは,静かさであり自然である。現代社会に問題を提起していると言ってもいいこの作品は,1942年にアメリカの最優秀絵本賞を受けている。絵本の内容はもちろんだが,賞を与えられたという事実に驚く。

『もりのなか』(マリー・ホール・エッツ作 まさきるりこ訳 福音館書店)は,子どもの心の中を映しているような作品だ。
 紙の帽子をかぶり,ラッパを吹きながら森に散歩に出かける「ぼく」。現実と空想の世界を自由に出入りできる子どもの姿だ。登場する動物の表情もいい。最後のかくれんぼから現実の世界に帰るところに登場する父親も素晴らしい。日本での初版が1963年となっているから,40年以上経った今も,そのよさを失ってはいない。

『あおくんときいろちゃん』(レオ・レオーニ作 藤田圭雄訳 至光社)。『もりのなか』はモノクロの世界だが,この絵本は絵の具の世界。しかも,考えられ描かれたものではなく,画用紙にちょいちょいと絵の具が置かれたファンタジーの世界である。
 レオ・レオニについては「スイミー」が教科書に取り上げられているので,よく知られた作家だが,こんなすてきな作品もあったのだ。

『もこ もこもこ』(谷川俊太郎文 元永定正絵 文研出版)は,作者谷川俊太郎氏が書いている通りである。
「もとながさんはへんなえばかり,ぼくはもとながさんのかく,へんなえがだいすきなので,いっしょにこのえほんをつくりました。そうしたらえほんもすこしへんなえほんになりました。かぜをひかないように,きをつけてよんでね。」(谷川俊太郎・表紙カバーより)
 なんでこんな絵本が考えられるのだろうか。いや,絵本は考えるものではないだろう。感じるものだと思う。子どもたちが,である。
「かぜをひかないように」と,谷川さんは心配しておられるが,私はこの度の寒さで風邪を引いてしまった。
〜〜二十億光年の孤独に
  僕は思わずくしゃみをした〜〜(谷川俊太郎「二十億光年の孤独」より)