そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.275  唐辛子味噌講話大学時代の同窓会2)

 文政11(1828)年旧暦5月6日,勝見のほとんどを焼き尽くす火事があったと伝える。しかし,薬師堂は被害なく残った。住民はこの薬師堂を拠点に,唐辛子味噌をなめて勝見復興に励んだという言い伝えが残る。
 この唐辛子味噌には,この行事に快く金品をご提供くださった皆様の暖かい気持ち,今年の味噌を練り上げた人たちの汗と努力,方丈様のありがたいお経とともに,勝見の歴史と伝統,勝見住民の村と生命を守り高めていこうという願いがこもっている。
 勝見には,この唐辛子味噌を初め,多くの行事がある。正月の初詣に始まって,とんどうさん,節分,正和会,薬師祭りなど。伝統のある行事,形を変えながら今も行われている行事,新しく始まったものもあれば,廃れてしまったものも。
 私は,昨年からこれらの行事を見ていて,子どもの参加の少ないのに気づく。これからの勝見を受け継いでいく子ども達がこれらの行事をどう見ているか。
 私は,何冊かの文集を用意した。そこに子どもたちが地域の行事をどう見ているかという証拠が残っていた。

 稲村謙一先生のまとめられた『こども風土記・こどもの暮らし今昔』。「わくぐり」は昭和29年,浜村小学校3年たがふみこさんの作文。前の日から楽しみにしていた輪くぐりさん。いろんな店が出ていた。それをのぞき買い物をする。そんな風景は今見られない。
 ずいぶん古そうな文集『すなはま』。浜村小学校から借りてきた。昭和41年度発行のものを見よう。当時の校長は八幡寿信校長。6の2の坂田敬さんの作文「ざぜん」。
「座禅の苦しみは吹っ飛んでいました。」こんな経験ができるのも地域のよさ。
 これは昭和43年のもの。3の2の大塩亮さんの作文「正和会」。ちょっと長いけれど,詳しく述べられ,最後にはこの年の正和会の評価まである。
 これは県の児童詩・作文集『あじさい』昭和46年のもの。浜村小学校6年谷口恵子さんの詩「おはようおばさん」。登校のときに出会う,野菜売りのおばさんとのあいさつから,温かい心の交流が伝わる。

 こうして文章に書けるということは強い印象があったということ。地域とのふれあいが行事を通して感じられたということ。おそらくその子には,生涯消えることのない出来事として刻まれているということであろう。
 ふれあいは普段の生活の中にもある。ちょっとしたあいさつ,声かけが人と人との心の通い合い,人と地域の結びつきのきっかけになる,と言えよう。

 最近の文集を見ると,地域の行事が出てこない。どうしてか。子どもたちは,
「勉強・スポーツが忙しい 他に面白いことがある 部落のことなんて」
 将来の勝見を担う子どもたちに大人はどうすればいいだろう。