そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.28 /名刺

 ずいぶん前のことになる。教頭になったとき,先輩から聞いたものだ。
「まず名刺を作ることだ。」管理職としての挨拶回りがあって,名刺を渡して覚えてもらう,という。しかしそのころ,挨拶回りが簡素化され,名刺を使うことはほとんどなかった。

 校長になって,名刺を使うことは増えた。校長室への訪問客も名刺を使うことが多いからだ。こちらも名刺を返す。しかし,1年に百枚も使うことはなかった。印刷屋で印刷するものの多くが残ってしまっていた。

 名刺は,ヨーロッパではドイツで16世紀ごろから使われた記録が残っているというし,中国ではもっと前から使われていたらしい。『日本国語大辞典』で調べるとその語源が,「昔,中国で竹木を削って姓名を記したものを『刺』といったところから」とある。洋の東西を問わず,訪問先への挨拶に,面会のさいの交換にと使われてきた相当の歴史があるようだ。

 退職して,名刺を使うことはほとんどなくなった。しかし,たまに出かけることもあれば,あった方がいい場合もあるかもしれない。そう思って手作りの名刺を考えた。
 そう言えば,以前に学校図書館研究会の中国大会の折,パソコンで手作りのものを準備したことがあった。「限定5枚しかありません。」と言いながら,各県の会長さんに配った。
 そのときを思い出しながら作る。

 キャッチフレーズを何にしようか。そうだ,庭をポイントにしよう。それほどきれいな庭とはまだ言えないが,樹もだんだん増えてだいぶ大きくなってきたし,花々も季節をかざるようになった。畑は何しろ素人でまだまだだが,少しは我が家の食卓を飾る。今は毎日イチゴの収穫がある。そのうち夏野菜が実るようになるだろう。

 野外テーブルと椅子も置くことにした。1組は既製品を購入したが,あと1組は,丸太を知り合いの大工さんに切ってもらって,ネイチャーテーブル。10人くらいならゆっくり大丈夫。ビールを酌み交わし,花を愛でる。

 「我が家の庭へどうぞ」をキャッチフレーズに肩書きのない名詞ができあがった。但し限定10枚。(2002.5.5)