そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.283  蕗のとう

 近所から蕗の薹(とう)をいただいた。蕗の薹は春の訪れの象徴のようなもの。
「親のフキはわが国から中国にかけて自生しているキク科の多年草です。学名はぺタシテス属ヤポニクス種。属名のぺタシテスはラテン語のぺタソス(日覆い帽子)が語源になっています。大きな葉を日よけの帽子に見立てたのでしょう。」(西良祐著『花を贈る事典366日』講談社)
 平安時代にはフキは野菜として栽培されていて,漬物などにして食べたらしい。

 春先に出てくる蕗の薹はその花芽である。柔らかい苞に包まれて,中には黄緑の蕾が並んでいる。
 これはこれで料理に使うと風味があって,蕗の薹味噌にしたりてんぷらに上げたりして食べる。その苦味がなんともいえない。花が咲くようになると食べられない。

 去年は1月の中ごろにはもう出ていたと私の記録にある。よしそこに行ってみよう,と探しまわったがなかった。今年は1月下旬から2月上旬にかけて寒かったから,いったん出かかって出られないでいるのかもしれない。去年もたくさん採ったのは3月に入ってだったから,もう一度行ってみることにしよう。

 ついでに自転車で田園地帯を走ってみる。菜の花(種類はわからない。最近よく栽培されている「菜の花」ではないかもしれない)は畑のあちこちに黄色い花を見せているし,オオイヌノフグリは明るい空色の花をつけて,畦道のあちこちに広がっている。水仙も地面から直角に緑の葉を立て,蕾も膨らんでいる。
 しかし,田や畦の表面にはまだ冬の気配が強く,枯れた草で覆われ,多くの生き物はひっそりと息を潜めている感じだ。

 あすは「春一番」かもしれないと,テレビは報じている。一見陽光は柔らかそうに見えるが,自転車を走らせると冷たい風が頬を突き刺す。

 ♪♪ 春は名のみの 風の寒さや 谷の鶯 歌は思えど
    時にあらずと 声も立てず 時にあらずと 声も立てず ♪♪
 ♪♪ 氷解け去り 葦は角ぐむ さては時ぞと 思うあやにく
    今日も昨日も 雪の空 今日も昨日も 雪の空 ♪♪   『早春譜』