そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.293  大山うらら

「とっとり花回廊に行こうか。」
と妻が言う。朝から快晴で2・3日前の大雪が嘘のような日だった。突然の提案にいいかげんな返事をしていたが,
「じゃ,行くか。」
と本決まりになってしまった。
 とっとり花回廊は,数年前にできた県立のフラワーパークである。私はこれまでに二度訪れている。大山を背景にして,季節の花を50haの公園にいっぱいに広げて見せる。最初に行ったときには,ポピーが咲いている向こうに大山があったから5月頃だったのだろうか。二度目は去年10月,自然観察の仲間で行った。サルビアの向こうに大山があった。

 1時間40分ほど車で走って到着した。平日なので駐車場も空いている。花回廊入場料金は12月から3月までは一人700円(4〜11月1000円)。
 入り口付近はチューリップでいっぱいだった。温度調節をして咲かせたもののようだ。この時期はまだ春の花は少なく,プロムナード橋のまわりにはパンジーやビオラが使われているが,ちょっと寂しい。

 花回廊の中心「フラワードーム」に入る。ここは洋ランがいっぱいだ。シンビジューム,デンドロビューム,ファレノプシス,パフィオペディラム,カトレア,オンシジュ−ム,エピデントラム,オンシジュ−ム,バンダ……ああ,舌を噛みそうだ。
 我が家にあるものもいくつかあるが,もちろんその種類と数と出来具合いはくらべものにならない。

 そこからくつろぎの館に向かい,回廊を歩く。今まで何ヵ所かフラワーセンターを見たが,このような回廊式のものはあまりなかった。花の丘に出る。背景に大山が見えたポピーやサルビアの場所である。この時期やはり花も境目というところらしく,ビオラが使われいていた。ビオラも大きな株になるにはもう少し暖かい日が続かなければならない。
 しかし,晴れ渡った空にきっちりと位置を占める真っ白い大山はこれまで見た中で最も美しかった。
 去年来たときには,「ふるさとの古径」や「森の道」など,自然観察にふさわしいところをまわったが,今回は,「ゆりの館」のユリ(ここのシンボルフラワー)や,「ジャングルドーム」の熱帯・亜熱帯植物など一般的なコースを取る。

 レストランで昼食をとり,花の苗を二つばかり買って帰路へ,と思ったが,気になっていた所があった。途中に「小野小町の石碑」があるという。帰り道細いわき道に入って400mばかりの所にそれはあった。
 ちょっと形のよい五輪塔と「小野小町」と刻んだ石碑が立っている。説明によると,「この五輪塔は,平安時代仁明帝のころ,宮廷に仕えて天才女流歌人,絶世の美女と謳われた小野小町の墓と伝えられています。(中略)この空風火水土の五輪の頭の石を擦りあわせて出来た石粉を,顔や手首につけると器量がよくなり,そばかすも取れ,悪疫除け,学問向上のご利益があるといわれています。(以下略)」(説明板より)
 本物と信ずるものは一人もいないだろうが,まあ,こんな山の中に小野小町の墓なんて,ちょっとした話じゃないの。