そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.318  東京行進曲5

 3日目の午前は青山散策にした。大きなかばんなどはホテルに預けて,ぶらりと出かける。通りからホテルに入る角の大きな建物が,能楽をやっている建物だと初めて分かった。見ているようで見ていないもんだ。しかし,どんな能・狂言などをしているのだろうか。これまで何度か通りかかって,そんな様子を見たこともなかった。

 左に折れてしばらく行くと,根津美術館に行くはずである。しかし,時間が早かったため開館していなかった。もう少し散歩をしよう。地図によると,「骨董通り」とある。しかし,それらしき店はほとんどない。
「なんだ,何もないじゃないか。」
と,美術館に引き返す。

 根津美術館では,特別展「南宋絵画」をやっていた。「国宝 漁村夕照図,国宝 鶉図など,山水画や文人画の傑作を多数輩出した南宋時代の絵画を網羅する特別展。」私はそれに対する知識を何も持ち合わせていないが,何らかの知識を持っている人にとっては,どうもかなりの展覧会らしい。会場時刻前に並んでいる人も多かった。

 入館してさらに驚いた。人が動かない。一つの作品の前で止まっているのである。よく見ると,作品の多くが中国宋代の作品であり,国宝,重要文化財に指定されているもののようだ。さらに,一般公開がほとんどない作品もあるらしく,そこから動かない人がある。徽宗筆「桃鳩図」(国宝・個人蔵)は期間中1週間しか展示しないということからか多くの人が固まって,レンズを使ってみている人も多い。私は中国の絵画は全く分からないから,近寄ることもできない。

 一般展示も見て歩いて(仏教美術が多い)庭に出る。ここは庭も素晴らしい。美術館を見る前の庭園見学はご遠慮ください,との案内があるが,展示館と庭園と独立してもいいくらいの美しさだ。
「根津美術館の庭園は,創立者の旧邸で,美術品とともに寄附されたものです。以前は荒野原であったところを,青山翁明治39年にこの地を求めてから数年がかりで造園したもので,千利休が茶庭の極意として示した『樫の葉の紅葉ぬからに散りつもる奥山寺の道の悲しき』の言葉そのままの,自然味の深い庭園です。」(「根津美術館」パンフレットより)
 全部を見ることはできなかったが,皐月らしい若葉と池の菖蒲と,秋の紅葉もいいかなあ。これはまた来てみる価値があるかもしれない。