そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.322  町誌編纂室にて

 町誌編纂事務の仕事を受けてから1か月半ばかり経った。編纂業務最初からのメンバーでないので,いきさつの全ては分からなかったが,ようやくなんとなくおよそのことは分かってきた。
 52年に発行されたものは内容的にもかなり古くなり,新しい町の姿を残していきたい。 新しい合併がほぼ決まった今,30年も前の町誌を合併後にそのまま引き継ぐことはできない。各地で,だんだんと新しい町村誌が刊行される中,気高町誌の改訂版(というか新版というか)町誌を出そうということになったらしい(特に町長の強い要望らしい)。

 しかし,市町村合併は今年11月に予定されている。そんな短期間でできるのか。原稿が仕上がってからでも1年近くの日にちを要するというのに。
 月1回の編纂委員会がある。分担が明確でなかった部分があったので,決めなければならない。今年いっぱいで原稿を仕上げたいということを聞く。17年度の予算までは町で編成できるが,18年度以降になるとどうなるか分からない。

 8人という少ない編纂委員で,おそらく1000ページにも及ぶ「新町誌」ができるか。
 私の手元にはそれでもいくつかの原稿が集まりつつあった。手書き原稿をパソコンに入力して,印刷送りの原稿に仕上げる。まだ「私の事務局」は開設されて1か月ほどだが,すでに40ページ分くらいの原稿が出来上がっている。これが多くなればなるほど,私の仕事は面倒になる。専門的な用語が多いので,どうすれば分かりやすくできるか,図・表の処理をどうするか,などの問題が多いのだ。

 ときどき学校の先生が隣の教育委員会事務局にやって来て,ふと気がついて「編纂室」を訪れることもある(事務局の隣の広いスペースに私一人ですから,気づかず行ってしまう人も多いのです)。
 今日も一昨年まで町内で校長をしていたOさんが来られた。用事を済ませてそのまま帰られようとする背中に,声をかけたが聞こえない。近くの事務局職員が呼び止めてようやくやって来られた。
「ここで何をしておられるんですか。」
「町誌の編纂事務ですよ。」
「それは,先生にはぴったりの仕事だと思います。」
「いや,専門的なことも多く,たいへんです。」
「浜村生まれの浜村育ちですし,『生え抜き』ということですか。よいことだと思います。」
「何が『生え抜き』ですか。もう抜けてしまって『生え抜け』ですわ。」
「ハハハハハッ。」