そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.33 /入院雑記1 落ちた


思いがけない入院になってしまった。
樹木の剪定をしていた。庭園作業用の脚立から落っこちたのである。脚立が「グラッ」となったとき「しまった」と思った。横に木の枝が見えた。「つかまらなければ」次の瞬間,落ちた。背中を激痛が襲った。
「大丈夫? 大丈夫?」と妻が背中をさすりながらたずねている。「大丈夫であるわけないだろうが」と,冗談交じりで答えたいところだが,とてもそんな余裕がない。意識があるだけに痛みは耐えられないほどだ。脂汗が流れる。

「病院に行く?それとも,救急車を呼ぶ?」こっちは苦しいんだ。考えられない。あいにくこの日は祝日だった。
「担当医はいないが,ベッドが空いているから来てもいい」という病院に,妻の車で向かう。途中,消防署に立ち寄った。念のため救急病院を聞くためだ。救急隊員,消防署員合わせて7・8名ほども次々出てきた。救急車で向かった方がいいと言う。乗りかえる。相変わらず背中には激痛がへばりついている。
細長いそりのようなものに,全身をベルトで固定されて出発。それでも車がゆれると激痛が走る。
「骨折の可能性があります。市内の病院に向かっています。」救急隊員が説明する。

病院到着。レントゲン,CT検査。結果を待つ時間が長い。
「骨なんかに異常がなければ,一泊ぐらいで帰れるんだろうけどなあ。」希望的な観測である。看護婦さん(最近呼び方が「看護師」に変わったが,これまで呼びなれたほうが馴染みがある)が同僚に尋ねている。
「せんていのセンってどう書くの。」痛さの中から私が答える。「前の下に刀。」ああ,こんなところにまで学校の先生を持ち込まなくても。いや,子どもたちへだったら「辞書で調べなさい。」と言うか。

整形外科の先生が,レントゲンフィルムを見ながらいう。
「第12胸椎圧迫骨折です。入院です。もっとも,何にも治療をすることはありません。とにかくベッドで安静です。」
かすかな期待もこれで崩れた。5月どころか,6月ごろまでのすべての予定はキャンセルして,治療に専念するしかあるまい。

この日の朝,テレビの星座占いは天秤座について「新しい出会いがあるでしょう」などと言っていた。このことだったのか,とんでもない出会いだ。(2002.5.14)