そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.339 雨の歌

 台風6号が去って,やっと梅雨らしい天気になった。図書館から借りている『こどものうた』(野ばら社)から雨の歌を探して見る。予想はしていたが歌の数は少ない。

♪♪ 雨がふります雨がふる 遊びにゆきたし傘はなし
   紅緒(べにお)の木履(かっこ)も緒が切れた ♪♪
              「雨」(作詞・北原白秋 作曲・広田竜太郎)
 大正7年(1918)9月の『赤い鳥』所収。『赤い鳥』は鈴木三重吉(1882〜1936)によって創刊されたものである。「まわりを見まわしたところうたわせたい歌,読ませたい作品のないことに気づき,『童話と童謡を創作する最初の文学的運動』を展開することを目的として,この雑誌の創刊を思いたったという。」(山住正巳著『子どもの歌を語る』岩波新書より)
 後世に名を残した詩人達,作曲家達が心をこめて作った子どもたちの歌が多い。
 この「雨」も,傘はなく,木履(かっこ)も緒が切れて,雨に閉じ込められた小さな女の子の,恨めしそうな顔が見えるようではないか。

♪♪ 雨降りお月さん雲のかげ お嫁にゆくときゃ誰とゆく
   一人でからかささして行く からかさないときゃ 誰とゆく
   シャラシャラシャンシャン鈴つけた お馬にゆられてぬれて行く ♪♪
            「雨降りお月」(作詞・野口雨情 作曲・中山晋平)
 大正14年『童謡小曲集(九)』収載。
「雨」が,傘がなく履物もない,ただ空を見上げるだけの女の子,であるのに対して,「傘はなくとも馬と行く,ぬれてでも行く花嫁」の胸のうちが描かれている。

♪♪ あめあめふれふれかあさんが じゃのめでおむかいうれしいな
   ピッチピッチ チャップチャップ ランランラン ♪♪
             「雨ふり」(作詞・北原白秋 作曲・中山晋平)
 大正14年『コドモノクニ』発表。
 もとの文章は全文片仮名だそうだ。雨降りの様子を擬音的な表現にしているものと思われる。2番以下は次のように続く。
  2 かけましょかばんをかあさんの あとからゆこゆこかねがなる
  3 あらあらあのこはずぶぬれだ やなぎのねかたでないている
  4 かあさんぼくのをかしましょか きみきみこのかささしたまえ
  5 ぼくならいいんだかあさんの おおきなじゃのめにはいってく
 雨が降れば,車での送り迎えも多くなってきたという最近の登下校の様子を聞くと,親にも子にもこの歌をしっかり聞かせたいような気がする。
 
♪♪ てるてる坊主てる坊主 あした天気にしておくれ
   いつかの夢の空のよに 晴れたら 金の鈴あげよ ♪♪
  2 (前半略)私の願いを聞いたなら あまいお酒をたんと飲ましょ
  3 ( 同 )それでも曇って泣いてたら そなたの首をチョンと切るぞ
             「てるてる坊主」(作詞・浅原鏡村 作曲・中山晋平)
 大正10年『少女の友』発表。
「首をチョンと切るぞ」なんて,すごい。でもそれは,現代の恐ろしい子どもたちの行動とはちがう,メルヘンの世界なのだ。