そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.341 ナツツバキ

「これナツツバキ(夏椿)だと思うんだけど。今日草取りをしていたら,花びらがいっぱい落ちているのを見て気がついた。」
 仕事から帰ると瓶にさした一枝を見せて妻が言う。白い花がひとつ咲いている。「ああ,そう言えば白い花が咲いているのを見たような気がする」と私も思い出した。妻は,何年も前に私が注文して取り寄せ植えたものだ,と言う。いろいろな苗物を買って植えていることは確かだが,ナツツバキについては覚えがない。まあとにかく木を見ることにしよう。

 見ると2mくらいに成長した木である。以前から「なんの木かな」とは思っていた。ツバキのようなツヤツヤした葉ではなくて,どちらかと言えばアジサイの葉を小さくしたようなゴワゴワした葉である。
 花の時期はもう終わったらしく,あと二つしか残っていない。あたりに花がたくさん落ちて,茶色っぽくなっている。よくもまあここまで気づかなかったものだ。

 本で花の写真を見ながら比べる。花弁の様子,オシベの形・つき方・色,どうも間違いなさそうだ。
「沙羅(しゃら)の花 夏椿の花 インドの沙羅双樹とはまったく別のツバキ科の落葉高木。樹皮はサルスベリに似てつるつるしており,六月ごろ葉の脇に大きな白い一重咲のツバキに似た五弁花を開く。  沙羅の花捨身の落花惜しみなし  石田波郷 」
                          (平凡社『俳句歳時記』より)

 そこまで調べて写真は次の日に撮ることにした。
 ところが,次の朝木を見に出ると花がない。散ってしまったのである。「しまった」と,瓶にさしてあるのを見る。なんとこれも花弁が落ちかかっている。
 よく見ると花弁が一枚ずつハラハラと散るのではなく,5枚まとまってオシベもいっしょに,膨らんだ子房から離れようとしている(写真)。家の中にさしていたものは葉に乗っかって止まっているが,外は風があるのでひとたまりもなく落ちてしまったのだ。
 そう言えばツバキもこんな感じだったのを思い出した。

 図書館で調べると,ツバキ科の中でもツバキやヤブツバキ,サザンカなどはツバキ属,ナツツバキはナツツバキ属となっている。「高木」とあるが,どれくらいの高さになるのだろうか。剪定を嫌うとも書いてある。高くなるにまかせるしかないのか。
 何はともあれ,来年は早く開花を見つけて観察してみよう。