そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.348  アンネの日記

 7月の演劇鑑賞会は「アンネの日記」(劇団民芸)だった。題名はよく聞いているが読んだことはない。夕食も会場付近でとることにして,少し早めに出かける。暑い。近くに適当な食事場所がなかったので,ラーメン屋で冷やし中華でも食べようかと入ったら,冷たいものはなし。熱い味噌ラーメンにまたまた汗をかく。

 舞台は1942年夏のアムステルダム。第2次世界大戦の最中ナチスのユダヤ人狩りがここでも猛威をふるっていた。ユダヤ人のアンネ一家は屋根裏部屋に身を潜める。下の部屋は事務所になっていて,気づかれると捕えられるため,昼間は声も出せず,物音も立てられず,水もトイレも使えず,ゴミの始末も夜にならなければできないという極限状態。食べ物も,アンネ達のことを理解し援助をしてくれるミ−プ・ヒース(相葉早苗)達の僅かな配給に頼るだけ。
 そんな中で,アンネ(藤田麻衣子)はこれまでと同じように明るくのびのびとふるまう。そのため,父(伊藤孝雄)母(日色ともゑ)にはたしなめられ,同居人とは衝突を繰り返す。

 1942年7月この屋根裏部屋にやって来たときから1944年8月捕えられる日まで,2年余り,13歳の誕生日のお祝いに父からもらった日記帳の記録をもとに劇は進行する。
 次々と知人が捕えられているという暗いニュースの中,ささやかなクリスマスも行われる。アンネは一人一人に手作りのプレゼントをする。戦争の様子も少しずつ伝えられる。ナチスは次第に連合軍に追い詰められるようになった。もう少しの辛抱だ。

 長い屋根裏部屋暮らしに,同居のファン・ダ−ン夫(里居正美)妻(奈良岡朋子)も疲れていた。息子のペーター(神敏将)は,明るいアンネの影響で次第に明るくふるまうようになった。「連合軍が上陸(ノルマンディー上陸作戦)に成功した」というニュースが飛びこんできた。アンネたちは大歓声を上げる。
「やった。もう大丈夫だ。」「助かった。」
 しかし,ナチスの追及が終わったわけではなかった。ふとしたことからこの屋根裏部屋にユダヤ人が潜んでいることを知られてしまっていた。
 1944年8月1日,アンネ達はここから連れ出され,ポーランドのアウシュビッツに送られる。日記はここで終わっている。アンネは処刑され,日記だけが残った。

 暗い時代の物語である。どうして世界は,こんな戦争を繰り返すのか。アンネは言う。
「世界がまだ育っている途中だから。」
 そうかもしれない。そうだとすると,世界は今も育っている途中で,いつになると世界は大人になれるのだろうか。