そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.354  トマテ!

〜 近来は温室栽培で季節なしに手に入るが,南アメリカ原産のナス科のトマトが日本に食用として普及しはじめたのは明治末期ごろからで,盛夏に赤熟するトマトは家庭菜園の色どりでもある。サラダにして生食するほか,ジュース,ケチャップなどに加工される。
  厚切りのトマトを食べて愛し合ふ   星野石雀  (平凡社「俳句歳時記」より)

 この暑いのに,熱い俳句からこの話を始めることになった。
 30年以上も前になるだろうか。その昔勝見からブラジルに移民で行った恩田さん(故人)という方が,初めて日本に帰ってこられたことがある。ブラジルに行く前から私の父とも交友関係があったので,家にも訪ねてこられた。向こうでの暮らし,遠い地球の反対側のことををいろいろ話された。農業で暮らしを立てているとのこと。その産物の中に,「トマテ」がしきりに出てきたのを思い出す。わが国では入ってきてまだ100年にもならないこの野菜は,南米の原産だったのだ。

 我が家でも毎年トマトを作る。今年は普通の大きいのを3本,ミニを2本植えた。よく病が出て駄目になってしまうことがあるが,今年は天気がよかったのか消毒のタイミングがよかったのか,思いのほかいい出来になった。ジュースにもケチャップにもしないが,毎日の食卓に色取りを添えている。

 トマトは挿し木で増やすことができる。妻は脇芽(これをのばしたらだめ)をあちこちに挿して増やしている。10号鉢にも挿したら結構実がなりだした。
「トマトもジャガイモももナス科の植物ですから,同じ一つの株から同時に収穫することができます」という話を清末先生から聞いたのは,6月の自然観察の会だっただろうか。挿し木でも接木でも育ち,実を結ぶ強い植物らしい。

「図書館の花は今度はトマトにしよう。」
と妻が言う。なるほど,曲がりくねって茎がのびているし,真っ赤な実もなっているし,見栄えもいいかもしれない。
「だれか実をとって食うかも知れんぞ。」
「いいじゃないの,食べれば。」

 そういうわけで,今町立図書館にはミニトマトが活けてある。もちろん食べてもいいですよ。造花ではありませんから。