そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.36 /入院雑記4 病室から Part2

 病院は郊外にあって,静かな雰囲気に身体を休めることができる。「それでもラッシュは大変よ。」と妻は言う。「どういうわけだか,雨が降ると車が混むの。」
どの道を通ってここに来たのか,これがどんな建物なのか,この部屋がどこにあるのか,少しも分からないまま,私は,「大変だね。」と言うだけだった。
 
 自分の位置がどうしても分からないことがある
 ここにいるのだから問題ないのよ
 と言われても
 納得できないことがある

 この部屋にこうしているのだからそれでいいのよ
 と言われて
 そうかもしれないと思いながら
 じゃあ地図で示してよ
 と言葉を返す
 カーナビで確かめて来たのだから間違いないわよ
 と言われるのだが
 私は車を追っかけている人工衛星を見たことがない

 隣の部屋がどこなのか
 いったい誰がいるのか 
 どこからか 朝の叫び 
 確かに聞こえてくる
 過去からの遠い呼び声
 未来からの誘い
 
 窓近く 鳶が風を切る
 耳をすまして
 自分の位置を探しあぐねている私
                 
              (2002.5.20)