そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.373  イングランド夏紀行11


 七 ガーデン
 K.R.G.ブラウンは『わが庭に幸いあれ』(筑摩書房)の中で「歴史が始まって以来,花と名がつけばどんな種類の花でも好きにならずにいられないのが,イギリス人の特徴である」とまで言っている。おう,その庭を見てやろうじゃないかというわけで乗り込んだ。というのは大げさだが,これまで述べてきた中にもコッツウェルズの家庭の庭があり,ブレナム宮殿の広大なヨーロッパ風の庭もあった。

「ロンドンの庭」といったらキュー・ガーデン。ロンドンから地下鉄で40分ほどの所にある世界遺産に認定されている植物園である。パンフレットによると,「地球に生息する植物種のおよそ8分の1に相当する4万種以上の植物を集めた,世界最大にして最も多様な生体植物コレクションを誇ります」とある。
 地下鉄による移動が、東京なら乗車券を買うだけでも面倒だが,トラベルカードがあるから全く問題ない。ただし,「行く先をよく見て」という長男たちの忠告を聞いて地下鉄に乗る。キューガーデンズ駅に着くと,看板にしたがって歩くだけ。ほどなくガーデン入り口に着いた。入場券を求めようと見ると,60歳以上は割り引き金額とある。
「I'm 60years old over……」などと知っている単語を並べると,「Senior?」とすぐ理解してもらえたらしくシニアのチケットをくれた。ひょっとすると必要かもしれないからと,パスポートの写しも準備していたのに。疑われなかったことがうれしいのかどうか。
 予定が2時間ほどしかないので,ほんの一部分を見て回る。ナナカマドが赤く色づいて美しい。ブッドレアもエニシダも,初夏から秋までの花や実が同居している。
「あれ,米だ。」オオオニバスなどの温室(ウォーターリリー・ハウス)で妻が見つけた。どこのなんという種類かまではわからなかったが,「Rice」は確かに立派な植物だ。水槽に植えられて穂をたれている。ここでは作物も一人前の植物として花に混じって植えられている。キュー・ガーデンは,研究施設でもあるらしい。世界各地の植物種の保護,保存に努めているという。研究施設も公開されていたが難しそうなので,見て回ることはしなかった。

 ロンドン・ハイドパークを歩いて見たのはロンドン滞在最後の日だった。そういえばこの近くを2・3度通ったのに,バスで眺めながら通り過ぎるだけだった。
 広い。昨日あたりから天気が変わって,涼しくなった庭を散策する。バラがある。ハマナスが咲いている。ハーブがある。アザミが大きな花を咲かせている。サーペンタイン湖の対岸には,たくさんの水鳥がいた。人慣れしていて餌をもらって食べている。
 クリの木が植えられていて,小さな実をたくさんつけていた。リスが走っている。カメラで追っかけると,木に登って裏側に回って見えなくなった。
 イギリスの王朝が国民に支持され続けているのは,このような施設の一般公開にあるのかもしれない。日本でも皇居を初めとする施設の公開は部分的にされてはいるが,まだ十分でないように思う。
 イギリスの庭のいくつかのパターンを見てきた。それなりのよさがある。日本の庭にもよさがある。きっと我が家の庭にも。だからこれからも作り続けなくてはならない。