そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.378  かもめ


「第11回BeSeTo演劇祭鳥取」のチラシがいっぱい入っていた。「1994年にソウルで第1回が開催された,日本,中国,韓国共同の演劇祭」と書いてある。そんなのあったのかいなあ,と思いながらちょっと興味がわく。最近,演劇鑑賞会で演劇鑑賞の機会も増え,近場での演劇はできるだけ観るようにしている。

 チラシをよく見ていくと,ジンジャントロプスボイセイ「かもめ」は船磯漁港特設舞台でも行うという。「'03利賀演出家コンクールで最優秀賞に輝いた鳥取出身の演出家・中島諒人の凱旋公演」と広告に入っている。でも,そのコンクールのことも演出家の名前も全然知らないけどなあ,雨が降ったらどうするのかなあ,と思ってさらにチラシを見ると「雨が降ること大歓迎」とある。まあそこまでいうのなら見ることにしよう。県民文化会館でチケットを求める。

 当日予定通り雨。昼間は降っていなかったのに,夕方になっておかしくなった。天気もきっとこの演劇が始まるのをを待っていたに違いない。でも,簡単な雨よけ設備のある仮設スタンドくらいはするだろうな,と思いながら,もしもの場合を考えて雨具も準備した。
 車で船磯に着いてみると,なんと屋根はない。受付で渡されたナイロンのカッパを着て,みんながスタンドで開始を待っている。私たちは,カッパの下にコートを着るのでちょっともたもた。しかし,これで少々の雨も大丈夫。

「かもめ」は,チェーホフの作品である(私は読んでいない)。青年作家「トレープレフの自殺を劇の冒頭に配置し,自殺直前のトレープレフの頭の中に想起される記憶・幻想という形で全体を構成した。自殺直前から始まり,そこまでの回想を追う形で最終場終盤まで展開し最後に自殺となる。(劇解説文より)」

 暗い内容である。主人公の心の内を映してこの夜の漁港を背景にした野外ステージはピッタリかもしれない。また,港を湖に見たてたところにも感心する。鳥取公演は市民会館でしているが,ここのほうが雰囲気が出せただろうと思う。多分いくつかの候補地を調べたのだろう。この近くだって港なら賀露,酒津,夏泊,長和瀬などがある。池なら湖山池,東郷池もある。でも,やはりここが一番条件(駐車場なども含めて)に合ったのだろう。

 雨がひどくなった。しかし,約70分の演劇は続いた。雨の中を走る,声が雨に震える。約300人(私の推定)の観客は最後までじっと見ていた。野外演劇もなかなかいい。いや,もともと演劇は野外だったのだから,これが本来の姿なのだ。
 思ったよりも本格的ないい演劇に出会えた。でも雨はねえ。