そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.381  ホトトギス



 庭のホトトギスがいっぱいに咲く季節となった。
「ユリ科ホトトギス属の多年草で,日本を中心としたアジアに分布しています。ホトトギス属には約20種が含まれていて,そのうちの半分(10種)は日本原産だそうですから,日本特産といってもよいでしょう。」(西良祐「花を贈る事典366日」)

 今年は台風が度々やってきて,このホトトギスもだいぶもみくちゃにされたが,茎は細い割にはしわくて丈夫なので,何とか花の時期を迎えることができた。例年毛虫の食害を受ける。イラガの幼虫みたいなやつが葉を全部食べてしまうのだ。今年は早い時期に見つけたので殺虫剤で処理できた。

 ところで,ホトトギスといえば鳥にも同じ名前のものがある。こちらには「不如帰」とか「時鳥」など漢字も当てられていて,どちらかといえばこちらの方がよく知られているように思う。
 高浜虚子主宰の俳句雑誌「ホトトギス」も,徳富蘆花の小説「不如帰」も鳥の方から取ったもののようだから,どうも花のホトトギスは存在感が薄い。俳句歳時記を見ても鳥のホトトギス,ついでだから万葉集も見たがやっぱり鳥のホトトギス。
 5月ごろから9月ごろまで日本に渡ってきて鳴く鳥のホトトギスに対して,花のホトトギスは10月のこの頃に咲く。季節も違うのだから,もうちょっと取り上げられてもいいのに,と思うのだが。
 多分その違いは鳥のあの強烈な鳴き声にあるのだろう。雄は「テッペンカケタカ」とか「トッキョキョカキョク」と夜昼かまわず鳴いてその存在を主張する。その声を聞いたことのない人は少ないだろう。「ホトトギス」という名前も鳴き声から来ているという。

 それに対して,花はもちろん鳴かない。ただひっそりと咲いているだけである。名前も,花に赤紫色の斑点があってそれが鳥のホトトギスの胸の模様にそっくりだということでついているというのだから,「鳥あって花あり」実に遠慮深いことだ。よく見ると美しい花だが,地味といえばそうかもしれない。群生していてもパッと目立つことはない。
 花言葉は「永遠にあなたのもの」。鳥のホトトギスのように大げさに鳴いて主張するところはないが,いつまでもしなやかに寄り添ってくる。

 先日の亀井公墓地での自然観察会では,ヤマジノホトトギスを見た。白花のホトトギスで,たった一輪ひっそりと咲いていた。