そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.384  リンドウ

  今年何番目かの上陸台風23号が,激しい雨風を運んできて去っていった。鳥取で瞬間風速38メートルだったというから相当なものだ。ちょうど私が勤めから帰ったころがいちばん厳しかったらしい。雨がひどいので,早く戸を開けて中に入りたいのに,風の押す力が強くて戸が開かないの。思い切って開けると,私よりも早く風が飛び込んでいった。
「ガタン!。」
 何かと思って入ってみると,部屋の仕切り戸が外れていた。重い戸なのにこれを外すなんて,と感心する。それでも被害はあまりなくてホッとする。

 夏の猛暑と秋の台風・長雨,そのためか今年の庭のリンドウはなかなか咲かず,枯れたようになっていた。それでもこのごろようやく色づいて,いくつか見られる状態になりつつある。
 リンドウ,漢字では「竜胆」と書く。これは根が胆汁のようにしかも竜の肝のように(誰も竜の肝は食べたことはないと思うが)苦いところから来ているという。この苦味が健胃剤,鎮静剤として用いられる。まさに「良薬は口に苦し」なのであるが,次のような話がある。

〜昔,役の行者小角(えんのぎょうじゃおづぬ)が,雪の深い日光の山奥を歩いているとき,白兎が雪の下から草の根を掘っているのを見かけました。不思議に思った小角がそのわけを兎に聞くと「これで私の主人の病を治したいのです」と答えました。そして草の根をくわえるとパッと姿を消しました。そこで小角もその草の根を掘りだして,里に持って帰り,用いてみると素晴らしい効きめがありました。(以下略)(花を贈る事典366日」西良祐)

 因幡の白兎は,鰐鮫をだまして丸裸にされ,大国主命から,ガマの穂綿にくるまれば治る,と教えられる。ここでは白兎は教えられる立場なのだが,植物の持つ薬効を伝えている話という点では同じである。事実ガマの花粉は,漢方で蒲黄(ほおう)といって消炎剤や止血剤として用いられているそうだ。

 昔の人たちは薬といえば(いや,毒も)草木などの自然のものから取った。だから,食べられるもの,毒のもの,薬になるものなどよく知っている。恐らく口にして見なければ,実際につけてみなければ分からなかっただろう。何度も経験してみたのだろう。命を落とした人もたくさんあっただろう。中には,毒を持っていても手を加えれば食べられる物もある。いったいどんな知恵を働かせたのだろうか。そして,それらの経験の積み重ねを覚え,言い伝えて来たものの一つにこんな伝説が残っているのだろうと思う。
 伝説の中にそんな昔の人たちの知恵を見ることができる。