そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.386  ツワブキ

  山里の草のいほりに来て見れば垣根に残るつはぶきの花  良寛
 俳句の季語では冬になるが,常緑の多年草で花ばかりでなく葉も年中楽しめる。わざわざ買ってきたものでもなく,どこかから採ってきたものでもない。何かに付いてきたものであろう。何株か勝手に庭に広がって咲いている。
 キク科の多年草。本来は海岸性の野草で,海に近いところの山野に多い。古くから栽培されていて,ニシキバツワブキ,キンモンツワブキ,キンフクリンツワブキなどの園芸品種も多いという。

 秋から初冬にかけて咲く黄金色の花は,庭の花が少ない時期だけによけいに目立つ。特にあまり日差しの強いところは好まず,日陰地のほうが適しているので,我が家の庭のように北側にあると育ちがよいらしい。緑の葉もつやつやとして,それだけでも鑑賞できる。
 春の若い葉柄は食用になる。「フキと同様な料理法をしますが,ツワブキのほうがはるかに美味だ,と絶賛する人もいます。」(「花を贈る事典366日」西良祐)
 見てよし,食べてよしのわが国の古典植物の代表だ。

 これも勝手に生えていて,季節はずれの花を咲かせているものにブッドレアがある。自然観察会で「フジウツギ」だと清末先生は言っておられた。はて,私の間違いだろうかと調べてみると,「花を贈る事典366日」にきちんと出ていた。
「フサフジウツギ(房藤空木),フサザキウツギ(房咲き空木),ウラジロウツギ(裏白空木)などがありますが,どれも一般には属名のブッドレアで親しまれています。フジウツギ科フジウツギ属の落葉低木で,原産地は中国です。」なんだ,同じものじゃあないか。

 さらに,英語ではサマー・ライラック,またはオレンジアイ・バタフライブッシュとも言うそうだ。それぞれに夏咲くところから,あるいは蝶が好むところからついた名前だという。そういえば,このページでも蝶がたくさん寄ってくる,ということを書いたことがあった。この花は蝶が好む何かを出しているのかもしれない。わが国には昭和27年に登場したニューフェイスだというが,初夏から秋にかけて次々と花を咲かせ,蝶もたくさん寄ってくるところから人気が出ているのだろう。

 それにしても,サマー・ライラックの名前とはずいぶん違った季節に咲いてしまったものだ。このところの長雨が梅雨のような感じになってしまったのかもしれない。
 この時期,サツキやサクラなど季節はずれの花(狂い咲き,返り咲き)を見ることがよくあるものだ。