そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.40 /入院雑記8 読書

 治療はがないが暇がある。ベッドから動けないので,身の回りのことは看護婦さんにしてもらうことが多いが,その他は自分の時間である。テレビは自由に見られるが,長時間見ているのも飽きる。そこで,机に向かってということもできないが,一つはこの「入院雑記」を書くこと,もう一つ読書を行うことにした。

 ホームページの「空の山通信」は,おかげさまで順調である。といっても,妻が慣れていないので,「いろいろミスはあるけど……」と本人は申し訳けなさそうに言うが,まあそれは後で直すとして,一応一日おきに更新の線は続けている。こちらは原稿を書くだけだから比較的楽だ。

 読書は随分進む。入院当初には,本年度芥川賞受賞の『猛スピードで母は』(長嶋 有)1冊を持ってきていたのだが,すでに半分ほど読んでいたので,すぐに読んでしまった。最近の芥川賞作品としては,面白いほうだ。ちょっと物足りない感じもするが。

 家にある本で,まだ読んでいないものを持ってきてもらう。一昨年度直木賞受賞作品『GO』(金城一紀)は,確かまだ読んでいなかった。これはなかなか面白くて2日ほどで読んでしまった。在日朝鮮人だけでなく,日本人の心にまだ根強く残る民族差別の意識について大いに考えさせられた。
 
 長男が「そんな短いのではだめだ。」と言って与えてくれたのは,『姑獲鳥の夏』 京極夏彦
の文庫本で600ページ以上もある。まったく読んだことのない陰陽師物だが,前半がちょっと面白くて,結局終わりまで3・4日で読んでしまった。長い割には今一つ締まらない。

 西木正明『夢顔さんによろしく』も500ページ以上の力作。元首相近衛文麿の長男文隆の,波瀾万丈の生涯を描いたもの。歴史的背景など,実によく資料に当たって書かれており,史実に基づいたものだけに,読みごたえのあるものだった。

 まだほかにも読んだが省略するとして,このような本を入院しながら利用できる仕組みがあればよいのに,と思う。たとえば,病院の図書室と県(市)立図書館とがネットワークで結ばれていて,私のようにベッド上生活の人も検索・リクエストができるようなシステムも,簡単に取り入れることができるように思う。

 そんなこんなを思いながら,パソコンの小さな画面に向かい,本を読む,「晴読雨読」の贅沢な毎日である。     (2002.5.28)