そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.419  ベトナム(ハノイ近郊)春紀行2

 喧騒の町  
 空港からホテルまで、1時間くらいはかかるという。このごろの新しい空港は、都心からずいぶん離れていて、行き来にひと苦労することが多い。ハノイも同じ状況らしい。
 空港を出て自動車道を走っているらしいが、周りは真っ暗、時々看板が見える。
「この辺りは日本の企業の工場があるところです。ナショナル、ヒタチ、トヨタ、ホンダなどたくさん入っています。ハノイに入っているのは日本の企業が一番でしょう。」

 道路が黒っぽい。
「あれ、雨が降っているのかな。」「水を撒いているのです。」
「えっ、毎日撒くの?」「はい、毎日。」
 雨が少ないからほこり抑えなのだろうか、ずいぶん水がいるだろうに。 車はビュンビュン走って、予定より少し早くホテルに到着した。

 時差マイナス2時間なので、一日が長い。ホテルのロビーで、トンさんと明日以降の予定について打ち合わせをする。
 二日目は予定通りハロン湾クルーズ観光。三日目はフリータイムになっているので、「少数民族の村を訪ねる」旅を入れたい。 トンさんは、
「わかりました。明日は9時出発で行きましょう。」

 時差は慣れないと結構きついものだ。たかが2時間だが、夜だと睡眠時間がそれだけずれてくることになる。つまり、ふだん6時に起床している私は日本時間の6時に目覚めてしまう。ところがそのとき、ベトナムは午前4時である。2時間のずれがさまざまな感覚的な食い違いを生む。「そうなのだ」と自分に言い聞かせているから「時差ぼけ」というまでにはならないけれど、2・3日ははっきりしない。

 さて朝方、ホテルの窓から外を見る。通りを車が走っている。いや、圧倒的な数のバイクが流れている。これは何だ。ものすごい数のバイクだ。
 朝食の後、今日の天気を見がてら通りの様子を見に出かける。ホテルの角の交差点の信号で止まっている何十台ものバイクが、一斉にスタートする。まるでマラソンのスタートみたいだ。あとでガイドのトンさんに聞いたところでは、日本製のバイクが最も多いという。乗用車も電気製品もそうだという。
 5年ほど前に中国の西安を旅行したことがあった。あの時は自転車の群れに驚いたものだった。ベトナムはバイクだ。エンジン音だけでなく、クラクションもものすごい。もちろん乗用車も軽トラックも走る。自転車も走る。その中を人が横断する。事故のないのが不思議なくらいだ。実際この旅行中交通事故には一度も出会わなかった。また、慣れてくると私たちでも横断できる。交通規則以上の暗黙の了解が運転者、歩行者の間にできていて、事故は予想外に少ないのかもしれない。
 しかし、まさに喧騒の町だ。