そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.423  ハロン湾ベトナム(ハノイ近郊)春紀行5

 私たちの「貸切」(いや、「借切」というべきか)観光船は出発した。ガイドのトンさんと、あとは船のスタッフとして運転の人一人、食事・売店関係の人二人、それだけである。なんとももったいない話だ。売店の人はいろいろ品物を持ってくるが、始まったばかりの旅行にあまり買う気にはならない。見るだけということになる。

 しかし寒い。日本で感じている気温との差がどのくらいのものかはわからないけれど、とにかく寒い。湾の景色は晴れていればなかなかのものだろう。桂林からの漓江川下りを思い出す。ここハロン湾は「海の桂林」と呼ばれているらしく、浸食されて絶壁に囲まれた岩山が次々に姿を見せる。
「空から舞い降りた龍が火の玉を吹き出し、それが海面に落ちて岩に変わった」そんな伝説があるそうだ。湾全体の広さは約1500平方キロメートル。大小さまざまな1969の島があり、そのうち989の島に名前が着いているという。
「天気がよければすばらしい景色だろうに。」

 果物などをいっぱい積んだはしけが、近くの観光船に近づいて客に呼びかけている。商売をしているらしい。どこの人たちも生きるための知恵をいっぱいに働かせて、力いっぱいの活動をしている。果物の一つでも、魚の一匹でも売って自分たちの生活を成り立たせなければならない。昼食時をめがけて売りに来る。

 この人たちは、水上生活者である。いかだに簡単な家を作り、そこを根拠にして漁をしたり商売をしたりして暮らしている。とれた魚をいけすに生かし、直接販売もしている。観光コースになっているらしく、観光船から降りて見学している人が10人ばかりいる。トンさんの勧めで私たちも蟹を2枚買った。観光船に帰ると、すぐに料理をするという。ゆで蟹がご馳走に加わった。
 船とガイドと水上生活者と、持ちつ持たれつの関係なのだろう。でもハロン湾の蟹もうまかった。

 ハロン湾は1994年に世界遺産に登録されている。ベトナムにはここを含めて4つの世界遺産がある。あとの3つ「フエの建造物群」「ミーソンの遺跡」「ホイアン」はベトナム中部にある。いずれも登録が新しい。これは世界遺産に申請するだけの環境が整えられなかったことによるものと思われる。こんなところにもベトナム戦争は陰を落としているのだろうか。
 しかしようやく平和が訪れて、このような観光を楽しむベトナム人も増え、観光客をもてなす人々の心の余裕も生まれたのだろう。
 船が接岸した。ハロン湾観光の最後は鍾乳洞見学である。