そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.425  ティエンクン鍾乳洞ベトナム(ハノイ付近)春紀行

 旅行予定表には確かに「鍾乳洞見学」も書いてあった。しかし、島の鍾乳洞なんてたいしたことあるまいと気にも留めていなかった。しかし、トンさんは今日のメーンイベントみたいに張り切っている。
 ティエンクン鍾乳洞。ここは鍾乳洞の中にぽっかりと天に向かって開いた穴があり、それが天国につながっていると信じられているところから「天宮(ティエンクン)鍾乳洞」と呼ばれているのだそうだ。

 船を下りて鍾乳洞入り口までの道に、ブーゲンビレアが咲いている。寒いといってもここベトナムは10度以上はあるから、年中咲いているのだろう。
「ブーゲンビレアだ。」と私が言うと、
「カミの花です。」とトンさんが言う。
「神の花? ずいぶんありがたい名前をもらっているんだなあ。ゴッド・フラワー?」
トンさんは答えずそのままになってしまった。ハロン湾の伝説といい、ティエンクンのいわれといい、何か神様に結びつくいわれでもあるのだろうか。
 帰国して調べてみるがわからない。「花を贈る事典」(西良祐著)には何かあるのかもしれない。「英名はペーパー・フラワー。これは花が紙細工のように見えるところからの命名でしょう。」なんだ、カミ違いだった。

 なかなか大きな鍾乳洞である。ここは中国が資金を出して観光地として開発したらしく、照明など完備して実にきれいにしてある。ちょっときれい過ぎてもとのままの鍾乳洞かな、と思うばかりだ。外気が入りにくい分、外の寒さは感じられず、落ち着いた気分で見学ができた。いくつもの大きな部屋があり、石柱も石筍も立派なものである。日本の鍾乳洞といえば、水が流れたり、上から水滴がぽたりと落ちてきたりするのだが、それがない。
「もう成長が止まっている鍾乳洞ということでしょうか。」近くで日本人観光客がしゃべっている。

 鍾乳洞を抜けて船着場へ向かう。観光船がひしめいて泊まっている。私たちの船は一隻越えた向こうにいる。それ以上は接岸できないようだ。
「この船を通り過ぎて乗り込みます。」
 その辺りのところがお互いさまの精神が行き届いているというのか、いい加減というのか。とにかく、別の船を乗り越えて私たちの船に乗り込む。

 180キロの道のりをハノイへ帰る。追い越し数十台(いや、もっとあったかも)。こんな運転の車に慣れた私が怖い(いや、ベトナムだからできる技だね)。