そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.438  二つの美術展

二つの美術展を鑑賞した。一つは島根県立美術館のギュスターヴ・モロー展、もう一つは米子天満屋で開催している谷内六郎展である。
島根の美術館にはこれまでも何度か鑑賞に出かけている。鳥取にもこんな美術館ができればいいとそのたびに思う。ちょうど時期を同じくして米子での美術展があるというので、美術鑑賞の日としたわけである。

実は二日ほど前にも一畑薬師を訪ねるバス旅行(生協関係の団体の花見)にも来ているので、連続の島根の旅である。そのときはものすごい風で、弁当が飛んで逃げないかと心配しながら食べた。今回は美術館のレストランで食べるから、天気については心配ない。ただし、このレストランはいつ行っても混んでいて、順番待ちをしなければならない。
ところが、この日は空いていた。平日ということもあったが珍しいことだ。それでも1時間かけて食事をして美術鑑賞ということになる。

フランスの画家ギュスターヴ・モロー(1826〜1898)は象徴主義の先駆者として知られている。今回の美術展では、神話や宗教的な主題を油彩、水彩、素描、計174点で構成してある。彼の作品は散逸することなく、邸宅とともに国に寄付され、ギュスターヴ・モロー美術館として開館した。つまり売り食いしなくてもよかったということ。
描かれているのがすべて女性(男性も女性化して描かれている)という不思議があるが、実にきらびやかな色彩は驚くばかりだ。宗教画といえば難しい内容を予想しがちだが、それを超えた美しさに驚かされる。

「忘れかけていた日本人の心の風景がここにあります。」のキャッチフレーズで谷内六郎展は開かれていた。
 谷内六郎は1921年東京生まれ。幼いころから絵を描くのが好きだったという。小学校卒業後は職を転々とし、その傍ら漫画やカットを描いて新聞や雑誌に投稿。入選もたびたびするようになり第1回文芸春秋分漫画賞を受賞。画壇デビューを果たす。
 彼の作品は何といっても「週刊新潮」の表紙絵。創刊から25年間にわたって描き続けている。「週刊新潮」を読んだことのない人でも、これらの表紙には見覚えがあるだろう。

 「日本の原風景」といえば確かに風景画なのだが、それは単なる風景画ではない。絵の中に彼の心が映っているのだ。年輪を見ればレコードから聞こえる音楽を連想し、雪をかぶったりんごを見ればサンタさんを思う。一枚一枚の絵から、彼の温かい心を感じる。表紙絵だけでなく、タイル画、TV挿入画、絵本挿入画、油彩画などなかなかいい作品がいっぱいだった。59歳の若さでなくなったことが惜しまれる。
 またいい美術展があったら鑑賞に出かけよう。