そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.439  春山歩き

 遅い桜だったが10日過ぎには満開になって散っていった。今年はツバメも遅かった。例年だと3月下旬には見えるのだが、4月4日にようやくお目にかかった。モンシロチョウが4月5日。3月の大雪が自然にこんな影響を与えているようだ。去年は4月初めには出ていたコゴミも14日ごろやっと収穫できた。

 コゴミ。
「クサソテツ(草蘇鉄)といってもなじみがないが、コゴミと言えば多くの人が『あー、あの山菜か』と答えるほど、近年の山菜ブームに乗った植物である。(清末忠人著『続さんいん自然歳時記』)」
この本によるとコゴミがこのあたりでもブームになり始めて10年くらいのものなのだそうだ。クサソテツの新芽は味に癖がなく、和え物、てんぷらなどにするととてもおいしい。私もこれがいっせいに芽を吹く場所を知っているので、毎年収穫して食べる。

 春の山菜といえば定番のワラビ。これも今年は遅かった。春の薬師祭りには大体2・3回の収穫があるはずなのに、やっと今日収穫らしい状況になった。2・3日前に偵察していて多分今日あたり本格的に出だすだろうと予想していたのだ。
 毎年ワラビについては近くの山3ヵ所位を見て歩くことにしている。たまに町外・郡外(市外)まで出かけることもあるが、年中少しずつ食べられるくらいのワラビは近場で十分だ。

 今年は大風、大雪のため山が荒れている。樹木の被害も多いが、笹などが雪に押しつぶされてまだ立ち直れない。その下から芽を出し、伸びてくるワラビなどは日光を求めて上に上にと伸びるから、実にいいものが育つことになる(これは食べる側の評価である)。まだ数は少ないが、太くて長いワラビが顔を出している。笹薮の中まで分け入るのは結構たいへんなのだが、収穫があれば何ということはない。

 ところで、今年はちょっとしたハプニングがあった。
「あれっ」と思ったのは、ようやくワラビ採りの調子が出かかったところだった。
「カメラがない!」ワラビを1枚収めておこうと腰に付けてきたはずのカメラのケースが空っぽなのだ。どうもケースのチャックを閉め忘れて、動き回っているうちに落としてしまったらしい。近くでワラビをとっていた妻にも探してもらうが、ない。カメラもだが、中に入っているカードには最近の写真130枚くらいが収められていて、旅行、町誌関係など二度と撮れないものもあるのだ。
 家に忘れているのであればよいが、と一度帰ってみるが、ない。もう一度出直して、歩いたところを丁寧に見ていって、
「あった。」
笹薮の中の地面に、カメラは私を待っていた。妻が言う。
「ワラビを採るか、写真を撮るか、どちらかにしなさいよ。」
ごもっとも。