そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.44 ハマヒルガオ

 今年は,天気の変化が極端である。1・2月の異常なばかりの暖冬に続いて,3・4月は高温の春,5月は雨続き,6月に入ってからは晴天続きで,早くも気温が30度をこえる真夏日になるという。
 海岸線を通ると日本海はすでに夏の景色である。最近は冬でも海に入っている若者があるので,それだけでも季節感が薄れているのだが,加えてこんなに暑いと正に夏そのものである。
 
 この時期砂丘植物は繁茂のとき。コウボウムギやハマゴウの群生は,国道近くから砂浜の斜面を一面に覆ってその強さを主張している。
 ハマヒルガオはこのあたりでは国道沿いに,断続的ながらも群生する姿を見ることができる。この暑い最中,その生命力には本当に感心する。

「和名は『浜昼顔』で,ヒルガオやコヒルガオ,アサガオなどの仲間である。牧野富太郎博士は,これらの植物の『顔』は,女性の美しい顔をイメージして付けたものだとしている。」(清末忠人『さんいん自然歳時記』より) 

 ところで,ずっと以前の国語の教科書(教育出版3年)に,「はまひるがおの小さな海」(今西祐行)というのがあったのを思い出した。たった一つだけ咲いているはまひるがおの花と,岩のくぼみにある小さな水たまりの中にいるお魚との話だった。

 実際のハマヒルガオがたった一つだけ咲いているという状況は,こうして群れ咲いている様子から見ると考えにくい。もちろんフィクションの世界だから,それをどうこう言うのではない。いや,一つ一つは小さくか弱く見えても,こんな炎天下それぞれの花をしっかりと咲かせているハマヒルガオの強さの一面を,作者今西さんは強調したかったのかもしれない。

 砂丘地に生きる生物は,それぞれに環境に合わせて生命を守り,種を保存し繁茂する力を備えている。いや,砂丘地だけではない。どんな環境にある生命体もその中で生きる力を持っている,というより,環境に合わせてそんな生きる力を育んできた,という方が正確かもしれない。
 では人間はどうか。残念ながら私は,それに対して「彼も可なり」の答えを出すことができないでいるのだが。            (2002.6.5)