そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.45 みんないいこ

 ここに1冊の教科書がある。表紙に「こくご 一」とあり,男の子と女の子の通学中の挿し絵が載っている。巻末を見ると「昭和22年3月15日翻刻発行 著作権発行者文部省 翻刻発行兼印刷者日本書籍株式会社」となっている。手元にあるものは,当時印刷された1年生国語教科書の復刻物である。

 戦後の小学校(国民学校改め)の出発は昭和22年4月である。この教科書が作られた年とほぼ一致する。当時の教科書検査がどのように行われていたか私はよく知らないが,「文部省検査済」の文字も見られるから,おそらく昭和22年に発行された小学校の国定教科書の第1学年用と思われる。(教育出版センター編『実践国語教育大系』別巻2「戦後国語教育史(上)飛田隆著を参考にして考察)

 私の小学校入学は昭和23年4月。ということはこの教科書を使っていたのだろうか。この表紙,なんとなく思い出があるような気はするのだが,「そうだ」という確信にまでは至らない。五十数年が過ぎていた。特に教員としての年月が長く,その間に見てきた多くの教科書のイメージが強く,忘れてしまったことが多いのかもしれない。

 表紙を開けると「もくろく」(目次)があり,続いて内容を開く。そのいちばん初めの文章。

    一 みんな いい こ
  おはなを かざる、 / みんな いい こ。
  きれいな ことば、 / みんな いい こ。
  なかよし こよし、 / みんな いい こ。

 
 そうだ,これだ。小学校入学といっても,特別な物も特別なこともない時代,貧しい暮らし。でも,教室の花を飾る,言葉をかけあう,友達といっしょの生活,そんなことに対する思いやあこがれはあったにちがいない。
 いつの1年生にとっても学校生活は新しい。そして大人にとっても,暗い戦争の時代から民主主義の世の中になって,「みんないいこ」の1年生を期待を持って迎えた気持ちが伝わってくるような気がする。

「みんないいこ」が「みんないい大人」に育ったかどうかは別として,子どもたちを迎え,接するときの原点をもう一度考えてみたい'と思う。  (2002.6.7)