そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.459  青谷シカン坂(6月観察会)
 青谷町総合支庁舎の北側に緑町という住宅地があり、空浜公園という公園ができている。今回の観察はその道を長尾の山に向かって上っていくコースである。「シカン坂」と地元では呼んでいる。
「シカン」とはいったいなんだろう。ふと思いついて青谷町誌を見ると、「山陰放送テレビ、山陰中央テレビが青谷鹿野坂に青谷テレビジョン放送局を設置しているが、鳥取市毛無山の中継局からの電波を受信し、町内に送信するための中継局である(下線・筆者)」と記されている。「シカノ坂」が「シカン坂」に転じたものらしい。ついでながら途中見かけたテレビ塔の正体も一挙に解決した。さらに「なぜ鹿野坂なのか」についても調べてみたが、これははっきりしなかった。
 海岸が近いこの辺りには、ハマヒルガオが咲いている。ヒルガオ科ヒルガオ属のつる性多年草。つる植物であるが、他のものに巻きつく性質はあまり強くなく、それよりも地下茎をしっかり張り巡らしているそうだ。夏の猛暑、冬の寒さ、吹きすさぶ砂の嵐などの環境に耐える性質を自分で作り出しているのだろう。花言葉は「賢くやさしい情愛」。
 ニワゼキショウも咲いている。漢字では「庭石菖」と書く。セキショウはサトイモ科ショウブ属だが、ニワゼキショウはアヤメ科ニワゼキショウ属の多年草。わが国には明治20年ごろにやってきた渡来種。当時は珍しがられて鉢植えにされて大切に育てられたというが、非常に強い繁殖力を持ち、あっという間に増えたため、見向きもされない雑草となってしまったという。しかし、よく見ればかわいい花である。清末先生も『さんいん自然歳時記』で「この可れんな花を、もう一度見直してほしい」と書いておられる。花言葉は「繁栄」。
 アザミの種類は多く、春から秋までどれかの種類の花が咲くが、俳句の季語では夏になっている。山道やあぜ道に沿って、1メートル以上の高さに花をつけている姿からは強烈な勢いを感じる。また、葉には鋭い棘がある。この棘がスコットランドを救ったのだという。
 13世紀、ノルウェーの軍隊がこの国の城を取り囲んだ。ある夜一人のノルウェーの兵士が城内に侵入しようとしたところ、アザミの棘に刺され、思わず声を上げてしまった。兵士は捕まり、そこから得た情報によりスコットランド軍は大勝した。以来、アザミは救国の花とされた。花言葉は「独立、厳格」。
白い房状の花をさして先生からの質問が来る。
「これは何の花ですか。」「クリの花。」「実はどこにできるのでしょう。」
 みんなが手にとって探す。
「クリにはシラガタロウ(白髪太郎)がいることがあるからなあ。」と先生。そういえば一昨年の菅野・酒賀神社付近の観察でシラガタロウの観察をしたことを思い出した。
「シラガタロウ ヤママユガ科クスサンの幼虫。成長すると全身が白色の長毛で覆われ体長80ミリの超大型の毛虫になる。」
「えっ」と驚いて手を離す。シラガタロウは確かにいた。ただし、この毛虫は毒をもたず、人に害はないという。
 一騒ぎ終わってから、「これが実になる部分です。」と緑の細い雌蕊(雌花)を示された。派手な雄蕊(雄花)に比べてずいぶん地味なものだ。しかし、このクリもシラガタロウに食い荒らされるか。なかなか興味あるところだ。
 全コース2時間20分くらい。最近ではこんなに歩くことはなかったかもしれない。それだけに収穫も多かった。ホトトギスが追いかけるように鳴いている。
 〜この文章は西良祐著『花を贈る事典 366日』を参考にしています〜