そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.46 アゲハチョウ

 春から秋にかけて,毎年家のまわりにアゲハチョウが飛んでくる。
 詳しく観察をしたわけではないが,やってくるのは午前午後の2回,この季節だと,暑い時間は避けているように見える。もちろん涼みにくるのではない。花の蜜を求めて飛んでくるのであり,産卵にやってくるのである。
 
 産卵の場所は,近所のみかんの仲間の木と我が家の山椒の木である。中でも,山椒の木にやってくることが多い。我が家の山椒の木は別に植えているのではない。延びた根から発芽するのか種がこぼれて芽を出すのか,あちこち生えてくる。

 では,どの山椒にも卵をつけるかというとそうではない。家の南西の隅にある大きな山椒の木,これはたくさん実をつけるので,佃煮を作ったりするのに我々は重宝しているのだが,アゲハはなぜか寄りつかない。
 家の南の幅1メートルもない場所に生えている小さな木が,彼ら(いや,彼女ら)のもっとも好みの木なのである。

 理由はわからない。ただ,この木がもっとも山椒の香りが強いことは確かだ。これに比べると,たくさん実をつける木の香りはずっと弱い。
 アゲハは香りや刺激を好むかどうかは知らない。しかし,そこに産み付けられた卵は,幼虫時代ずっとその木の葉を食べて育つのだから,その味を自分のものとして脳に刷り込んでしまうのではないか。それはアゲハの成虫になっても変わらず残っている。そして,その香りを求めて飛んできて,卵を産みつける。まあ,こんな推論をした。

 さて,卵から幼虫,蛹,成虫への成長観察は簡単なようで,よく失敗をする。
 えさ(山椒の葉)を萎れさせないようにと入れておいた水に,幼虫がおぼれてしまったり,幼虫が行方不明になってしまったり(蛹になるときの移動でよくある事故),失敗の方が多い。蛹から出てきたのが蜂のような虫で,観察していた子どもたちがびっくりしたこともある(成長の過程で別の昆虫が卵を産みつけることがある)。
 それでも,もう20年も前,我が家の子どもたちと夏休みの観察をしたときにはうまくいった。蛹からなかなか羽が出せないのを,ずっとずっと見ていたのを思い出す。

 今年,余分な山椒の木を抜いてしまった。アゲハチョウはお目当ての木がなくて,ちょっと困って思案に暮れて,中空をさまよっているかな。
     (2002.6.9 写真はガクアジサイ・本文とは関係ありません)