そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.48 にほんご

 1979年に発行されだ『にほんご』(福音館書店・谷川俊太郎他編集)という本を読み返してみた。この本は,「あとがき(谷川俊太郎)」にもあるように「文部省学習指導要領にとらわれない,小学校一年生のための国語教科書を想定して」作られたものである。
「わたし かずこ」に始まるこの「教科書」は,今読んでみても新しい提案をしているような感じがしてならない。

「『読み』『書く』ことよりも,『話す』「聞く」ことを先行させています。(中略)言語の基本である『話し・聞く』行為を重視するとき,未整理のままの,あるいはすでに偏見にとらえられている子どもの言語世界に,一つの秩序を発見させ,ことばとは何かを自覚させることが必要になってくる」(「あとがき」より)
 今年完全実施となった新学習指導要領国語で,初めて「話す」「聞く」が「読む」「書く」よりも先に取り上げられることになったのは,周知の通りである。

「言語を知識としてというよりも,自分と他人との間の関係をつくる行動のひとつとして,まずとらえています。(中略)ことばの豊かさをまるごととらえること,ことばは口先だけのものでも,文字づらだけのものでもなく,全身心をあげてかかわるものだということを,子どもたちに知ってほしい」(「あとがき」より)
 やはり新指導要領における国語科のキーワード「伝え合う力の育成」が,私の頭に浮かぶ。「(ことばは)全身心をあげてかかわるものだ」ことばの大切さがずっしりと感じられる。

「ことばには心だけでなく,それと切り離せぬものとしての体,つまり文体と呼ばれるものがあるということを,暗唱を想定したさまざまな文例によって示しています。」(「あとがき」より)
 このことを通して,日本語の伝統に気づかせ,母語への感覚を鋭くしたい,と訴えている。そして,日本語は地球上にあるたくさんの言語のひとつとしてとらえ,他の民族,他の文化,他人とのまじわりの必要性,むずかしさとおもしろさにも気づかせたい,という。

 そうだ。これは正に「にほんご」だ。どの教科書よりも,もちろん学習指導要領よりも,日本語のことを大切にしようとしている教科書なのだ。小学校一年生というよりも,日本人として考えておかなければならない多くのことを投げかけているような気がする。
 最近日本語に関する本がいろいろ出版されている。私も,国語のこと,日本語のこと,ことばのことなど,ふだんのくらしの中から考えてみたいと思う。 (2002.6.14)