そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.491  台風

〜〜それ大風激しきを颶といふ。又甚だしきを颱と称ふ。颶は常に驟に起り,颱は漸ありて来る。颶は瞬のうちに発りて,?に止み,颱は一昼夜,或は数日にしてすうじつにしてなほ止まず。(『椿説弓張月』より)〜〜
 ようするに「颶(ぐ)は急に起こる激しい大風で,すぐに止んでしまう。颱は暫くの間を置いてやってくる大風で一昼夜,数日も続くことがある」ということらしい。

 台風14号があちこちに大きな被害をもたらした。上の文で言えば台風は「颱」に当たる。南の海に発生したこの時期の台風は,西へ西へと進みながら発達し,今度は次第に北に向きを変えて日本に近づく。さらに九州に近づくころにはだんだんと東に進路を取る。
 もちろんこれは一般的な話で,実際のコース予想はたいへん難しい。今回も九州に近づいたあたりで進路を東寄りに変えてきそうなので,ひょっとしたら鳥取県直撃かと心配したが,実際には思ったよりも北にとったため,早く日本海に出てしまった。鳥取県にとってはありがたかったわけだが,それでもしばらく強い風が続いた。

 台風の風は,上の文章にもあるとおり「一昼夜,或は数日にしてなほ止まず」である。大体九州に接近したころに余波がやってくる。もちろんこれは本体の風ではない。そして,近づくにつれ少しずつ強くなり,吹いては止み,また吹いては止みを繰り返す。動きの遅い台風だと,この前触れが2・3日も続くことがある。
 本当に圏内に入ると確かに風は強くなり,立っていられないくらいにもなる。と言っても常時吹いているのではない。そのために,「もう止んだのかな」とか「このくらいなら大丈夫だ」という油断を生むことになる。

 台風の目に入ると風はすとんと止む。また,台風が最も近づいたときにも風が弱くなったり止んだりすることがある。これは風の方向が変わる切れ目を指している。その後にはまた空気の渦巻きに襲われることになる。
 したがって台風が去ったというのは目が通過したり,一番近いところを過ぎたときと思ってはいけない。後半戦が待っているわけだ。

 畑に蒔いたダイコンがこの雨で芽を出した。しかし,背の高いヒマワリはほとんど倒れてしまったし,ゴーヤの棚もかなりの被害だった。日差しはまだ暑いばかりだが,朝晩の空気は冷たく,いよいよ秋本番を迎えることになる。