そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.50 スイレン

 スイレンの花が咲いた。
 我が家に池はないので,プラスチックの容器に水を張って植えている。以前は北側の庭においていたが,なかなか咲かないので南側の日の当たるところに出したら,よく花を見るようになった。

 ハスと同じものだと思っている人もあるようだが,違ったものである。どちらもスイレン科の植物なのだが,ハスが水面から葉や花茎を伸ばして咲くのに対して,スイレンは葉も花も水に浮かんだ状態なので区別できる。

 ところで,「水蓮」と書くのは間違いで「睡蓮」が正しい。
 わが国に自生する「ヒツジグサ」はその仲間のひとつだが,これは羊(未)の刻(午後2時ごろ)に開花し,夕方には閉じてしまうことがつけられた名前であるという。しかし,実際には午前中に開花するものもあり一定ではない。我が家のスイレンも午前9時ごろには花を開いた。もっとも,夕方には花を閉じて「眠りにつく」ことは確かである。

 この花の学名は,Nymphaea,ギリシア神話の水の妖精(ニンフ)ちなんだものだという。エジプトでは,「生命力の象徴」だとか「太陽のシンボル」とされていたという。また,ドイツでは,スイレンの葉の下には魔物が潜んでいて,この花を取ろうとすると水の中に引きずりこむとか,白いスイレンは恋人を結びつける力を秘めていると信じられている,など,さまざまな伝説があるようだ。(「花を贈る事典366日」講談社 西良祐著より)
 
 一昨年の夏,カンボジアのアンコール遺跡を見てまわったことがある。(「空の山旅行記・5 赤い土赤い水」参照)それらの遺跡を池が囲み,スイレンの花が咲いていた。
 この池には,日本の城を囲む濠のように外敵からの守備の意味もあるのかもしれないが,遺跡の多くが神仏を祀ったものであることから考えると,建物の威容をさらに高めるための仕掛けであったのかもしれない。
 池にうつるアンコールワットは美しいものだった。そして,そこに咲くスイレンは格好の彩りであった。

 さて,我が家のスイレンは3日ほど開いて最初の花が終わった。今,2つ目の花が水面に近く花茎を伸ばしてきている。金魚とメダカも同居する小さなプラスチック容器だが,少しだけ楽しみを持つ梅雨のひとときである。
(2002.6.18)