そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.527  トルコ・エジプト悠久の旅16
街のとなりはピラミッド
 カイロの空はいつもかすんでいるようだ。そして街から見るピラミッドもかすんでいる。砂漠で巻き上がる砂埃だろうか。ナイル河も濁っていて,底を見ることはできない。エジプトで最も楽しみにしていたピラミッド観光である。
 昨日の夕食も鳥料理で,なんだかちょっと飽きた。妻は,夕べの鳥は「気が進まない」と言ってレストランに食べに出かけなかった。何か残り物でも食べて過ごすのだろう。
「ワインでもたっぷり飲むか」と,同じテーブルの人とボトルを注文しようと相談がまとまる。ところが,高い。日本円で数千円だという。「冗談じゃない」と交渉するがまとまらない。結局いつものとおり私はビール(しかも,缶ですよ)。どうしても,とグラスワインを飲む人もある。物価が高いのか安いのか分からない国だ。
 さて,ピラミッドに向かってバスは走る。昨日オールドカイロに行ったのと同じような方向に向かっている。ごみが多い。川(ナイルの支流らしい)もごみだらけ。保健衛生観念が薄いのだろう。なんと,馬の死骸が捨ててある。こんなことじゃあ世界の観光地が泣くよ。やたら警備の人は多いが,たまには掃除でもしたらいいのに。
 などと話していると,ピラミッドの近くまでやってきていた。町のとなりに砂漠があって,そこにピラミッドがあるというわけだ。考えてみると王の力を誇示する建造物でもあったのだから,砂漠の真ん中に墓を建てるようなことはしないだろう。見せつけてやらなければならないのだから。それにしてもあまりにもすぐそばなので「へーえ」という感じだ。
 ギザの三大ピラミッドのうちクフ王のピラミッドを見上げる。大きい,なんていうもんじゃない。よくもまあ,こんなでかい物を造ったもんだ。実際に造ったのはそのころのエジプト人。奈良の大仏だって相当の人々がかかっているのだから,当時のエジプト人にとってはたいへんなことだったのだろう。
 ピラミッド全体をカメラに収めるのにはだいぶ離れなければならない。少し離れた所に土産物屋があって客待ちのラクダもいる。何を売っているのかなあ,と見て歩くだけ。
 カフラー王のピラミッドには中に入って見学。こんなこともできるんだ。日本の古墳だと「天皇のもの」というだけでシャットアウト。もっとも日本の天皇家は現在も続いているものだから,ちょっと歴史がちがう。エジプトではピラミッドの中に「王の部屋」が見られるようになっている。
 このピラミッドにはグループのみんなが入ったのに,次に入ったピラミッド(「赤のピラミッド」と思うのだが)は数人しか入らない。「どうして?」と思うが,一直線の階段をどんどん下りるといやな臭いがしてきた。下りるに従って臭いは強くなったがやめることはできない。古墳でいえば「玄室」に当たる部屋に向かって直線状に下りた先に確認して,階段を上る。139段。下りのときには調べなかった段数を確認した(別に何の意味もないけれど)。
 しかし,急な階段と空気の悪さに疲れた(写真はピラミッドから帰り着いて一休みの場面)。あとでガイドブックを見ると,やはりこのピラミッドに入る人は少ないという。
 でも,私はそんな少ない人の中の一人になれたことに満足していた。つまり,ピラミッドの中は,そんなに快適な状態ではないということ。ミイラはどんな気持ちで何千年のときを過ごしていたのだろうかなあ,などと,造った側の人々と,葬られた人との思い(といえるのでしょうか)を勝手に想像することができたからである。