そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.548  ネコヤナギ

 12月終わりからの雪と寒さで,春がすっかり遅れているみたいだ。フキノトウはまだ出ないし,プリムラ・マラコイデスの花もなかなか咲きそろわない。家の中のフクジュソウも旧正月というのにまだ完全には開かない(もっとも,開きかけたところをナメクジに少しやられたのが響いたらしい)。ハゴロモジャスミンも蕾がなかなかふくらまない。シンビジュームも遅れている。
 明日辺りからまた寒くなって雪が降るというから,これらの花々もさらに遅れるかもしれない。

 そうは言っても春の気配が少しは見られるかもしれないと,雨の止み間を見てカメラ片手に外に出る。
 あった。木の枝の節々に白いものが雨のしずくをきらきらと光らせて,今蕾の皮を脱いだところのようだ。ネコヤナギ。我が家にはまだ小さな木が2本あるだけだが,それぞれに早春のあたたかさを主張している。

〜〜 青い芽を吹く銀座のやなぎ 〜〜 というのは,我が家では5mもあるシダレヤナギ。妻が「ひみつのはらっぱ」で餅を花のようにくっつけたと書いているのはそちら。
 ここに出てくるネコヤナギというのは通称で,カワヤナギというのが正しい和名である。雌雄異株だが,切り花として用いられるのは豪華な花の咲く雄のほうだ。もちろん「ネコ」というのは,びっしりと全体を覆っているやわらかい白銀の毛の様子から付いた名前であるが,「エノコロヤナギ」という別名もある。これは長い花穂を子犬の尻尾に見立てた命名だという。見ようによって猫とも犬とも見えるわけだ。
 ネコヤナギに近い仲間にコリヤナギがある。これは行李(こうり)をつくるヤナギというところからつけられた名前。「柳行李」の原料である。といっても今の若い人にはわからないかもしれない。
  日をゆりて水よろこべり猫柳    石原舟月

 足元をよく見ると,草の先に小さな紫色の蕾が見える。
「ああ,オオイヌノフグリだ。」
 最初に春の訪れを知らせる野の花がここにも見られる。家の中のサンルームに入れている鉢物をよく見ると,デンドロビュームが3鉢ばかり蕾を延ばしかけている。
今日はもう旧正月の5日,最近にない寒く長い冬だが,それでもこうして春が少しずつ近づいているのが見えるようになった。
 明日は節分,そして立春。暖かい春はもうすぐだ。