そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.56 7月の詩 

  梅雨まだ晴れず     清水行人

 
    花の香に酔いしれて
    蝶は沈む
    深く 深く 
    花芯に口吻を立て 羽をたたんで 
    7月 雨やまず
  
     海峡に日は沈む
     あの日マラッカの町は赤く燃えていた
     わたしたちは黙ってそこに座ったまま
     見つめていたのだった 
     黒々と沈む町
     人の住まないビルの中
     心の奥深く 突然の驟雨(スコール)

    ひらりと翻して
    蝶は舞う
    雨の止み間に空高く
    その高さから見えるのは
    うごめく人影 喧騒の町
    すがたを変えて
    蝶よ
    どこへ行こうというのか
 
     果てしなく続く油椰子の林
     ときどきゴムの木 バナナ ココヤシ
     その行きつく先に
     安らぐところはあるか
     照射する南の陽光に
     わたしたちは喘いでいた

    7月 雨まだ止まず

    蝶 飛ぶ                    (2002.7.4)