空の山通信11

No.567  8人の卒業生

  今年の卒業生は男子2人,女子6人の8人だった。それぞれに個性的で,仲のよい8人だったと記憶している。祝詞は2日前に持って行ったが,式にもぜひ出席しようと出かけた。
 駐車場に車を止めると,「やあ」と声をかける人がある。見るとHさんである。私よりも大分先輩で,中学校の音楽の先生をしておられた。隣の町の人で顔見知りだった。また,私が教頭をしていたとき中国地区教頭研究大会が鳥取市でもたれたことがあり,その会の事務局をしておられた。私もその会の委員の一人として加わっていたので,よく知っている。でも,どうして卒業式に来ておられるのだろうと,考えて分かった。いわゆるゲストティーチャーとしてこの学校の子どもの指導に当たってきたのだ。最近,クラブ活動や総合的な学習に,地域の人に指導者として加わってもらうことがよくある。指導者への手当ては教育委員会から出るので,学校も頼みやすい。音楽が堪能なHさんは,あちらこちらの学校に出ておられるということを聞いていた。
 校長室に入ってみると,もう7・8人の方が来ておられた。やはり,ゲストティーチャーらしい人が多かった。鳥取市との合併で来賓が少なくなるだろうと思っていたら,ちゃんと埋め合わせができるようになっていた。

 8人の卒業式なので,一人ひとりに十分な時間がとってあった。私も8人の卒業式をしたことがある。やはりこの学校でのことだった。一人ひとりの出番をできるだけとり,卒業証書も全員全文読んだものだった(「以下同文」で省略したり,代表に手渡しするだけにしたりするのが普通)。
 今年の式では,証書を受け取ったあと,今思っている将来の夢を壇上からみんなに話す,というものだった。ケーキ作りをしたい,プロ野球の選手になりたい,バンドマンになりたい,作家になりたいなど,今の自分の経験から将来を夢見ているものだった。
 在校生との「送ることば」では,在校生が卒業生一人ひとりをよく見ていることばが印象的だった。中に,「今月の詩をいつも一番に覚えておられました」ということばがあった。「今月の詩」は,私が赴任する前からあったのだが,きちんと位置づけて本当に毎月の子どもたちの課題としたのは私である。そして,その子は毎月,一番にやってきたのだった。「ああ,六年間その姿勢は変わっていないのだな」と感心した。

 最近の卒業式からは「仰げば尊し」はもちろんのこと,「蛍の光」もなくなってきている。この学校もそうだった。それは別に悪いことではない。主役は卒業生であり,それを盛り立てるのは在校生であり,教師であり,保護者であり,来賓である。
 自分たちが選んだ歌やことばを一生懸命に歌い,語っていた。ちょうど1時間,6年間のまとめの式は,喜びのうちに終わった。