空の山通信11

No.572  春爛漫

「河内に行ってみようか」と妻に言うと,
「えっ,高知?」と驚いた様子。
「今から高知に行くわけないだろう。河内川」
「そうか,じゃ,行こうか」
 ということで出かける。毎年この時期に,2・3回河内川の上流の土手を散策する。めあては食べられる野草の採集である。コゴミ(クサソテツの若芽)がもう出るころかもしれない。

 今年は雪が多かったから,山裾や川土手,田んぼにも雪が残っていた。クレソンもたくさん採ったことがあったのだが,それらしきものは全く見られない。土手にフキノトウが顔を出していた。私の家の近くではもう花も散ってしまっているが,この辺りではやっと出てきたところらしい。ポケットにいっぱいになるくらい採集する。

 少し下って,いつもコゴミをたくさん収穫する川原を歩くがやはりたいした収穫はなかった。厳冬の影響がまだ残っているようだ。もう少し下って,これまで歩いたことのない川原を探す。フキノトウが満開である。「時期を見て来たら袋いっぱい採れるぞ」と思う。
本流から少し離れて小さな流れがあった。
「おや,あれは」と,妻と確認する。クレソンじゃないか。そんなに多くはないが,流れが強くないのが幸いして留まり繁殖したらしい。根は残して,全部は採らず,それでも結構な収穫である。
「今年初めての散策にしてはまずまずの収穫だ」

 帰り道,会下の中嶋さんの家の枝垂桜を見ることにした。ここの枝垂桜はこの辺りでは評判のもので,私もこれまでに何度か花見をしている。中嶋さんは高校の校長先生を退職された後教育委員長をしておられた。私が校長をしていた小学校の校区の人なので,何度か家を訪れてもいる。
「ああ,満開だ」天気もよく,ピンクの花が広がって美しい。おばあさんが一人向かいの物置に座って花見をしていた。
「今日が一番いいところです。昨日はまだ花が少なかったが,今日の天気で一斉に咲きました」 蕾が少しあるが,それもちょうどいい。去年は鳥取の生山の枝垂桜を見た。木はあちらのほうが大きいと思うが,白い塀から道路に枝を垂れさせて咲いている様はなんともいえない。写真を何枚か撮る。
「『写真を撮らして』と言う人は多いけど,写真を送ってくれた人は一人もおらん」と中嶋さん。いい写真ができたらもってきてあげよう。