そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.6 校長室から

  去年のことだった。県中部で会合があり,一杯呑んでJRに乗った。近くに高校生も乗っていた。彼らが私をちらちらと見ながら話をしている。「詩を覚えさせられた……」 えっ,ひょっとしたら私のことかも。県中部に勤めていた私は,子どもたちにも覚えてほしいなと思う詩を,毎月提示して,暗唱させていた。そのときの話かもしれない。高校生が話しかけてきた。

「前のS小学校の校長先生でしょう。」

「ああ,そうだよ。」「私を覚えていますか。」

 わかった。顔を覚えていた。まわりにいる子達も。

「よかった。覚えてもらっていて。」

 少し話しをして彼らは自宅近くの駅で下車していった。

「校長先生,元気でがんばってください。」

ほろ酔い加減の私は,実に気持ちがよく,うれしかった。

 小学校校長として3校目が終わろうとしている。3つの小学校の校長として勤めるということ自体珍しいかもしれない。でも,どの学校も好きだった。いや,どの学校の子どもたちも好きだった,と言う方が当たっているのかもしれない。今,学校を巡ってさまざまな問題が取り沙汰されている。しかし,私のまわりの子どもたちはいい子たちだった。

 さて,多くの学校の校長室,あるいは会議室,図書室などに歴代校長の写真が掲げてある。初代校長から,ずうっと写真の学が並んで,取り囲んでいる。校長室を訪れた地域の人や学校関係者はそれを見て,

「ああ,この校長先生は覚えています。」とか,

「この校長先生のころからはわかります。」と話をする。一つの話題にはなる。

 しかし,歴代校長の写真にぐるりを囲まれて,時には「お前は何をしているのか。」などと言う声が聞こえてくるような気がしないでもない。

 今勤めている学校の写真は小さいものになっていて,それほどの感じはないのだが。できたらコンピュータに取りこんでしまって,見たい人が見たいときに見る,なんて方法がいいのかもしれない。