尾瀬を後にして草津温泉はホテル高松着。予定よりも少し遅れたが,ゆっくり温泉につかることができそうだ。夕食までに温泉に入る。私たちの部屋には4人がいっしょなのだが,大風呂には谷村さんと二人がいっしょだった。先に入った谷村さんがいない,と思ったら隣の露天風呂に入っているので,行ってみると,
「鳥が入っている,ほら」と言う。
「えっ,それなに?」
谷村さんが指差すほうを見ると,確かにいる。露天風呂の横の水溜りでパシャパシャと羽をぱたつかせながら湯を浴びているのだ。私は他の人にも見てもらいたいと思って大風呂に引き返してみたが誰もいない。もう一度露天風呂に引き返してみると,パシャパシャと湯を浴びた鳥はどこか高く飛んでしまった。
「入浴する鳥があるのですか」あとの会食での話である。
「えっ,知らない」「なぜカメラを持って行かなかったの」「温泉にカメラを持っていったらどう思われますか」「男風呂ならいいんじゃない」
「ここの風呂には鳥が入浴するのですか」仲居さんにも聞いてみる。
「聞いたことも見たこともありません」
もっとも仲居さんは男風呂には入らないだろう。
「ヒヨドリかもしれませんねえ。人の近くによくやって来て,なれなれしく動きますから」
とは,柏井さんの弁。
帰って調べてみる。
〜〜 鳥の羽毛は,軽くて丈夫にできていますが,とてもデリケートなものでもあります。ですから,少しでも手入れをしないと,すぐにボロボロになってしまい,保温性が落ちて死につながります。そのため,鳥は水や砂を浴びて羽の汚れを落すメンテナンスを欠かしません(柴田佳秀『鳥の雑学』「鳥の入浴事情」より)。 〜〜
つまり鳥が水浴びをすることは珍しいことではなく,彼らにとっては必要な行為だということ。そして,次のような例を挙げている。
水浴びをする鳥……カラス,シジュウカラ,ホオジロ,ハト類,カモメ類など
飛びながら水浴びをする鳥……ツバメなど
飛び込み型……カワセミ,サンコウチョウなど
砂浴び……キジ,ウズラ,ヒバリ,スズメ(水浴びもする)など
アリを浴びる(蟻浴)……ハシボソガラス、カケス,ヤマガラなど
煙を浴びる(煙浴)……ハシブトガラスなど
しかし,「温泉を浴びる」例は挙げられていない。でも,確かにいた。あの鳥はおそらく毎日草津の湯に入って,「一度はおいで どっこいしょ」と歌っているのだろう。 |