そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.61 言葉考3『大村はまの日本語教室』 

 たまに本屋を覗いて見ると,日本語に関する本がたくさん出版されている。つい近頃聞いた名前の人の書いたものが多いのだが,その中に大村はま先生のものを見つけた。
 国語教育に多少でも関っている人なら,大村はま先生を知らない人はなかろう。中学校の教壇に長年立っておられた方で,国語教育の実践家として小学校の国語教育界でもよく知られている。
 講演活動もさかんにやっておられ,ずいぶん前になるが,鳥取であった講演を私も聞いた記憶がある。

 巻末の略歴を見ると1906年生まれとある。50年間の国語教育実践(なんと,私より12年も多い)もたいしたものだが,2002年の現在も,「日本語を育てる知恵と工夫」を本にまとめられるものすごいエネルギーには驚かされるばかりだ。
 そんなことを思ったら,近頃売り出しの若い人の本よりこちらの方を買ってしまった。題して『大村はまの日本語教室』(風濤社 1200円)である。

 中を読んで見る。実にわかりやすく書いてある。「聞くこととはなすこと」の中の〈疑問をたいせつに〉では,次のように述べておられる。
〜〜疑問をたいせつにすることが,自分のことばの力をつけるためにも,大きく言えば,日本のことばをよくしていくためにも,だいじなことです。(中略)よくないことばにピンと気がつくこと,それはことばの力のよく育ってきているしるしです。〜〜
 そうですよね。「変な言いかただ」と思ったら,ちょっと立ち止まって考えてみること,私もそう思う。

 敬語について次のような記述もある。
〜〜「おっしゃられる」 あんまり言いにくいことばは,長い間みんなに使われてくるはずがありません。(中略)これは敬語の使いすぎです。〜〜
 私もこの「おっしゃられる」はずいぶん気になっていた。「言いにくいことばは,長い間みんなに使われてくるはずがありません」そうだ,その通り。
「読むこと」について〈たくさん読みましょう〉,「書くこと」について〈筆まめになりましょう〉,などなど,ほかにも教えられることがいっぱいある。

 このようにとても具体的に書いてある。中学校の先生・生徒でなくても是非読んでほしい。指導要領や指導書よりもずいぶん分かりやすく,役に立つことがあると私は思う。さらに秋にはその第2弾発刊を予定しておられるとか,楽しみである。
       (2002.7.14)