そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.65 漁火のような広がりを! 

 最近,二つの展覧会を見た。
 一つは「中島菜刀生誕100周年記念特別展」(6.12〜7.10渡辺美術館)。中島菜刀は1902年八頭郡郡家町稲荷に生まれた日本画家。京都絵画専門学校卒業,29年日本美術院展入選,42年出品の「薫風梨園」は日本美術院賞となった。1955年没。

 展示会場には菜刀の作品と彼と関係深かった人の作品あわせて37点があった。放浪の俳人田中寒楼は彼が河原町西郷小学校時代の同校の教師で,後にともに北陸,四国,九州などを彷徨し,寄寓先を求めるという流転の生活を送っている。したがって,「寒楼賛」の書の入った作品もいくつか見られる。

「作風は大自然を愛し,土地にとけこんで暮らす庶民の姿が明るいタッチで描かれ,生命の息吹が感じられる鮮麗な画風が特徴で,俳画から菜刀の達観した人生観も伺うことができる。」(特別展パンフレットより)しかし,勢いが感じられる作品が少なく,とくに晩年はさびしい感じがした。多くの作品を描いたにしてはちょっと物足りない。
 と思っていたら,7月21日付「日本海新聞」文化面に「中島菜刀,棟方志功が日本画合作」の記事が出た。その記事の中に「菜刀の作品は焼失したり,散逸して代表作もほとんどが行方がわからない」とあった。そうか,それで特別展の作品が物足りないと思ったのだ。ちょっと残念である。

 7月20日には「福井千秋の遺作展」(7.13〜21倉吉市博物館)を見に出かけた。福井千秋さんは倉吉市の人で昨年なくなった。その活動は,青年団活動や市職員としての活動を通して,絵画,演劇,文筆活動をはじめ,まちづくり,平和運動,読書運動など非常に幅広い文化活動を行った文化人である。

 私も図書館に少し関係していて,多分どこかでお目にかかっていたのだろうが,意識してお会いすることはなかった。昨年6月終わりごろ「夢フェスタ鳥取事業説明会」が倉吉であったとき,本の学校の永井伸和さんが,「国民文化祭の出版文化に関するこの事業は福井さんにお願いしていたのに」ということを話されたのを聞いて,初めて知ったようなことであった。

 遺作展は油彩,水彩をはじめ,同人誌,ポスター,手書き原稿など彼の文化活動にふさわしく幅広いものであった。山下さん(故山下清三氏の娘)の詩の朗読,谷本堅二さんの「賢治を歌う」などもあり,地域の文化人の遺徳を偲ぶよいひとときとなった。
(この文のタイトル「漁火のような広がりを!」は福井千秋遺稿集の題です。2002.7022)